愛機《トリスタン号》を駆る若きトレジャーハンター・ラグナは、 ハンター協会からの運搬依頼で、浮遊島《イルバード》を目指していた。
運搬物は、イルバードの博物館に返却される、貴重な展示品数点。 つまりは体のいい使いっ走りだったが、ラグナは未だ訪れたことのない、数多の遺跡が点在するというこの島を訪ねることに軽い興奮を覚えていた。
ネコのような魔人、そしてフードをかぶった謎の少女が操る翼竜たちと激しいドッグファイトを繰り広げながら、何とか撃退しようとするラグナ。しかし優位に立ちながらも、思わぬ不意を付かれて愛機を撃墜されてしまう。
その様子を、黒水晶の谷間から眺める者がいた。 薄紫色の髪をなびかせ、黒衣のドレスに身を包んだ可憐な娘。 底知れぬ輝きを秘めた深紅の瞳が、遠くの丘から上る一条の煙を捉えている。
「……やれやれ。期待させておいてあの程度か。 まあいい、この目で確かめてみるとしようぞ。
あの間抜けな翼乗りの青年が我が下僕にふさわしいかを、な。」
そして── 深い夕闇の中、娘は目を閉じ、背中にある漆黒の翼を大きく広げた。