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■えみり

【タイトル】 続・重剣流特訓法(その1)
【作者】 えみり

 ゼムリア大陸、レマン自治州の峡谷地帯にある
「ル=ロックル訓練場」。
 大陸全土で活躍する「遊撃士」が訓練を行う施設だ。

 ちょうどこの日も、訓練場ではリベール王国から来た
3人の準遊撃士が朝から鍛錬に励んでいた。
名をディン、レイス、ロッコという。
少し前まではリベール王国にあるルーアンという
港町で「レイヴン」という不良グループを率いていた
男たちである。
そんな彼らだが、とある遊撃士との出会いを機に、
3人揃って遊撃士の道を志すことになった。
先日、準遊撃士になるための試験に合格したものの、
合格の条件が「1件の仕事を3人でこなすこと」で
あったため、各々独り立ちを目指してここで訓練をする
ことになったのだ。

 ディンとロッコが手合わせをしている最中、彼らの
様子を見守るレイス。

「あ〜、朝飯まだかな…」

 手には遊撃士手帳を持ち、アーツの学習をしている
様子ではあるが、空腹で身が入らないようだ。

「それを言うなって、俺だってガマンしてるんだ」

 ロッコの攻撃を受けつつ、ディンがレイスに向かって
言った。

「ったく、こんな朝っぱらから訓練させやがって…」

 ディンに向かって攻撃を繰り返すロッコだが、彼も
また不満顔である。

「おら、喋ってる暇があったらしっかり動けや!」

 愚痴をこぼすディンたちに一喝を入れたのは、
正遊撃士、アガット・クロスナー。
彼の背負う、身の丈程もある厳つい剣は「重剣」と
呼ばれており、彼自身の二つ名にもなっている。
元はレイヴンのリーダーをしていたという縁も
あって、ディンたちが遊撃士を目指し始めた時期から
ずっと指導を続けている。

「んなこと言ったって、腹が減っちゃ動くモンも
動きませんよ」
「そうそう、まずは腹ごしらえしたいっスよねー」

 ディンとレイスがアガットに抗議する。
やれやれといった様子でアガットが言った。

「ったく、仕方ねぇ奴らだな…。まあいい。
そろそろ飯もできる頃だろうし、切り上げていいぞ」

 宿舎に戻り、朝食を採る3人。
その横で、先に食事を済ませたアガットは宿舎の
整備士・ロベルトに呼び止められていた。

「昨夜から通信機の調子が悪くてね。
グリムゼル小要塞に予備の部品があったと思うから、
取ってきてもらえないかな?」
「わかった。
訓練の準備もあるし、ついでに取ってきてやるよ」

 ロベルトから小要塞の鍵を受け取り、アガットは
宿舎の出口へ向かう。
出て行く様子のアガットに気付いたディンが尋ねる。

「あれ、兄貴。どこ行くんスか?」

「グリムゼル小要塞に行って来る。
午後にはそこで訓練だからな。
昼前には戻る。それまで待っていろ」

 そう言うと、アガットは宿舎を後にした。

■えみり

【タイトル】 続・重剣流特訓法(その2)
【作者】 えみり

 朝食を採り終え、食堂で次の指示を待つディンたち。
 時刻は昼を迎えようとしているが、アガットが戻る
気配は一向にない。

「…戻ってこないね〜」

 レイスがたまりかねて言う。

「そのうち戻ってくるんじゃねぇか?」

 イラつきながら切り返すロッコ。

「いや、それにしては遅いよな…」

 ディンはそう呟くと、おもむろに席を立った。

「小要塞へ行ってみないか?
あの人に限って何かあったとは思えねぇが、
それにしても遅すぎる」

 アガットは強い。
この辺りの魔獣など相手にならないくらいに。
それでも、普段から仕事に厳しいアガットが約束の
時間に遅れるとなれば、何かあったと考えるのが自然で
あろう。
ディンの提案に、レイスもロッコも賛同した。

「そうだな〜、行ってみるか♪」

「ちっ、面倒くせぇが、それしかなさそうだな」

 こうして、3人はグリムゼル小要塞に向かうことに
なった。

 グリムゼル小要塞。
訓練場にある訓練施設のひとつである。
その要塞の入口へ向かうと、扉が開けっぱなしに
なっており、床に僅かな血痕が確認できた。

「おい、まさか…」

「いや、魔獣の血痕かもしれねぇが…」

 息を呑むレイス。
ディンはその場での判断を避けたものの、その顔には
焦りの色が浮かんでいる。

「とりあえず、行くしかねぇだろ。
2人ともついてこいよ」

 ロッコはすたすたと要塞へ足を踏み入れた。

「ま、待てって!」

「待ってよ〜」

 ディンとレイスは慌ててロッコの後を追った。

 小要塞の内部には魔獣が徘徊している。
ロッコが切り込み、ディンがそれに続き、レイスは
アーツで援護する。
仕事をこなすうちに築いた戦闘スタイルだ。
抜群のチームワークで魔獣を難なく倒し、要塞内に
仕掛けられた仕掛けも順調に解いていった。

 2階にある暗闇の倉庫スペースを抜け、その先の
小部屋に進んだ3人。
だが、そこに予想外のトラップが待っていた。
ロッコ、レイスの順に部屋を出た後、最後尾を歩いて
いたディンの目の前で、部屋の扉が急に閉まったのだ。

「なっ、どうなってんだ!?」

 驚くディン。
扉は叩いても押しても引いてもビクともしない。
扉の向こうの2人も扉を動かそうとするが、やはり
反応はない。

「だめだ、開かねぇよ〜」

 レイスが呟く。

「…先に進めば解除できる仕掛けがあるかもしれねぇ。
とりあえず行くぞ。
もし開いたら、後を追いかけて来い!」

 ロッコはディンにそう呼びかけると、レイスとともに
先に進むことにした。
ディンのことは気になるが、どちらにしても、後には
戻れない。
今はアガットを探し出し、この小要塞で何が起きて
いるのか突き止め、何とか脱出することが先決だった。


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