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■しみずしょう

【タイトル】 面影(おもかげ)
【作者】 しみずしょう

 街外れのバー、という表現は間違っている。奇妙なこ
とに、街を出て街道を少し歩いた先にその店はあった。
 こんな所に誰が来るのかと疑問を抱く者もいるだろう
が、俺のようなはぐれ者には似合いの場所だった。
 店内にはすでに数人の客がいた。皆一様に暗い顔をし
ている。
「バーボンを2つ」
 空いていたカウンター席に着き、バーテンに声をかけ
た。
「お連れ様は、遅れて来られるので?」
「いや、来ないよ」
 何気ない問いかけに、俺も何気ないふりで答えた。
 何かを察したバーテンは、黙って2つのグラスに琥珀
色の液体を注いだ。

 最近、街道周辺で狩りに遭う者が後を絶たない。
この店の常連客にも何人か被害が出ていた。俺の親友
もその一人だ。
危険、一人で行動するな、など様々な貼り紙がされて
いて、静かなバーの雰囲気を壊していたが、誰も文句を
言う者はいなかった。
遊撃士の活動が活発になっているらしい。市民の安全
を脅かすとか、適当な理由をつけては仲間たちを狩って
いく暴力的な連中だ。
それだけでなく、最近はクオーツがどうとか、セピス
が高く売れるとか、欲望丸出しで襲いかかってくる奴も
少なくない。
そんな奴らに、俺の親友はやられた。なんとか助けて
やりたかったが、俺の力ではどうすることもできなかっ
た。
俺は、悔しい気持ちより無力感に囚われていた。

「お隣いいかしら」
突然声をかけられて振り向くと、グラマーなヒツジン
が立っていた。
「なにかポムっとしていてステキな人ね。話し相手にな
ってもらえない?」
普段なら話しかけられるだけで舞い上がってしまいそ
うな美人だったが、今日は誰かと話をするような心境で
はなかった。
「悪いが、そんな気分じゃないんだ」
しかし、彼女は構わず隣の席に着いた。
「ごめんなさい。でも私もたぶん同じ。約束の相手がも
う来られないみないみたいなの。だから・・」
バーテンが彼女のグラスを席に置いた。
彼女とはそれほど言葉を交わしたわけでもないが、同
じ時を過ごした。大切な者を失った者同士、お互い慰め
合うように。

 数日後。
どうやら、俺も覚悟を決めなければならない時が来た
ようだ。目の前にいるのは、間違いなく親友を狩った遊
撃士達だ。
戦いに向かかう気持ちの中で、なぜかバーで合ったヒ
ツジンの面影が浮かんできた。
(彼女にもう一度会いたいな)
そう思った瞬間、なぜかふと笑みが浮かんだ。

「ポム、ハケーン!(キラーン)
いっくわよー!!
えいっ!
やあっ!
ハァァーーー
桜花無双撃ィィ!!!」

 戦いはあっけなく終わった。
(これでまたあいつに会えるな)
しかし脳裏に浮かんだのは親友ではなく、なぜかヒツ
ジンの女の面影だった。
(あんたは幸せに・・・)

「ほらほら見てヨシュア!セピスがっぽりー!!」


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