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■猫好きおねいさん

【タイトル】 遊撃士が町にやってきた 1
【作者】 アルト・タップル

 導力革命から早50年以上経とうとしている。
なのにオレが住んでいる所は、ゼムリア大陸の辺境で
その中でも特に田舎な村だ。導力は一切通ってない。
しかも導力の存在すら知らない人だっている。
このご時世に。あり得ないよな。でも本当の話。
 あ、自己紹介が遅れたけど、俺の名前はベルナート。
この、ド田舎な村で一人、便利屋として生活している。
便利屋って言うのは、頼まれた仕事を何でもする仕事だ。
町への買い物も、薪割りも、子守だってやる。
父さんはやっぱり便利屋みたいなことをしたから、
オレに何でも教えてくれた。魔獣だって倒せたんだ。
他の国のことも教えてくれたから、導力も知ってる。
だからオレは村の人にも頼りにされてるんだ。
 そんなある日、村にやってきたんだよ、遊撃士が。

あれはオレがいつも通り町に買い出しに行った時の事だ。
村に帰る途中オレは魔中に襲われた。
魔獣って言っても雑魚だけどな。
オレは自慢のブーメランで返り討ちにしてやった。
そしたらさ、後ろから別の魔獣が襲ってきたんだ。
咄嗟にブーメランで庇ったけど、流石にマズイと思った。
その時だよ、遊撃士が颯爽と現れて魔獣を撃退したんだ。

「おい、坊主大丈夫か?」
オレは気づかないうちに瞑っていた目を開けた。
そこには若い男女の二人組が立っていた。
「助けてくれてありがとう。けど、あんたら誰?」
「俺達は遊撃士だよ。
今度町に遊撃士協会の支部ができることになったんだ」
「遊撃士?」
「そう、よろしくね」

遊撃士のことは、オレも村の皆も知っている。
そして、仕事内容が便利屋と似ていることも。
初めはオレもライバル視なんてしてなかった。
だってここは田舎。地縁血縁が物言う閉じられた世界。
余所者があっさり信用されますかっての。
と・こ・ろ・が!あいつらときたらプロのクセして
オレより低価格で依頼を受けるんだぜ?
町への買い出しの報酬の相場は500ミラ。
なのに遊撃士は300ミラくらいで引き受ける。
アマで子供のオレと格安で働くプロの大人。
村の皆がどっちに仕事を頼むか聞くまでもないぜ。
遊撃士が来てからオレの仕事は減ってきた。
あいつらはオレのライバルだ。
こっちだって生活掛かってるんだから負けられない。

 ある日、久しぶりに近所の人に仕事を頼まれた。
「悪いけど遊撃士協会に依頼出してくれないかしら?」
いつかこんな仕事が来るんじゃないかって思ってた。
でも実際頼まれるとショックだ。
ライバルにわざわざ仕事をやりに行くなんて
オレのプライドが許さない。
でも、仕事は仕事だ。それに選べる余裕もない。
オレはついでに買い物も引き受けて町に行った。
買い物を済ませ、悔しいけど依頼を出した。
村に帰る途中、オレは慌てた様子のトムさんに会った。
「あれ、トムさんそんなに慌ててどうしたんですか?」
「それが、山に魔獣が現れて木こりの人達が……!」
オレはそれを聞いて村に走りだした。

■猫好きおねいさん

【タイトル】 遊撃士が町にやってきた 2
【作者】 アルト・タップル

 オレの住んでる村は林業で生計を立てている。
山は良質な木材が取れるからこの近辺の国では有名だ。
だから、村の男のほとんどは木こりなんだ。
 そんな村で山に魔獣が出るって言うのは一大事。
今までにも何人か襲われて亡くなった人もいる。
でも、魔獣を退治できる人は村には少ししかいない。
遊撃士が来て喜んでいるのにはこんな理由もあるんだ。

 オレは買ってきた物を家の前に置くと、山に急いだ。
護身用のブーメランはいつでも持ってるから、
山に直行しても問題ない。
この時間帯は木こりの人達は休憩中だ。
ってことは皆山小屋にいるはず。
村の人達が止めるのも聞かずにオレは山に入った。
オレは取り敢えず山小屋に直行した。
山小屋に着いたけど中は無人だった。普通逃げるか。
オレは山小屋から村までの道をくまなく捜した。
すると、近くで悲鳴が聞こえた。声がする方へ走る。
そこには3人の木こりの人がいた。そして魔獣も。
跳びかかろうとした魔獣をブーメランで吹っ飛ばすと、
ブーメランが戻るまでに小石を拾って魔獣に投げる。
オレは器用だから大体投げた物は的に命中するんだ。
魔獣を一通り追い払うと、教えてもらった近道で
木こりの人達を村に送って、山小屋に直ぐ戻って来た。
木こりの人達は全員で7人。とすると後4人残ってる。
山小屋付近にはいないようで足跡も見つからなかった。
ふとその時、大木の陰に誰かがいるのが目に入った。
一瞬だったけど確かに人だ。オレは木に近付いた。
その時、いきなり槍がオレに向かってきた!

「うわああ!」
オレはびっくりして足を滑らせ派手にこけた。
その声を聞いて木の陰から二人出てきた。
「あれ、この前の坊主?何でこんなとこに……」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃないよ!ビックリしたんだから!」
「ああ、すまんすまん」
見覚えのある遊撃士は苦笑しながら言った。

「え?迷子?」
「そうなのよ……近道教えてもらったら余計迷っちゃって」
オレはあまりと言えばあまりの展開にさっきより驚いた。
だって、遊撃士ってプロだろ?なのに、何で迷子?
「おまけにさっき強そうな魔獣に見つかってな。
隠れてたんだが、足音もなく気配がしたからつい……」
「オレを魔獣と間違えたって事か」
「まあ、そう言う事だ」
「あんたらプロなんだろ?何で人と魔獣を間違えるのさ」
「まさか木こり以外に人がいるとは思わなかったんだ。
それよか、坊主はもう村に帰れ。危ないぞ」
「オレだって魔獣退治できるよ!迷子にもならないし」
「うっ……それにしたって民間人を危険に巻き込めないさ」
「オレが戻ったとして、木こりの人達探せる自信あるの?」

痛い所を突かれたみたいで2人は何も言わない。
オレはしてやったりとばかりに2人を見た。
その時、2人はパッと立ち上がった。
「君、後ろに下がって!」
「え?」
振り向くと、そこには見慣れない魔獣がいる。
オレはとっさにブーメランを投げつけた。


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