■幸村 聖
「なつかしいですね〜」
数年ぶりにロレントの地を踏んで、
ドロシー・ハイアットは1人呟いた。
少しとぼけた性格だが、カメラマンとしての活躍が
評価され、近頃は多忙を極めている。
そんな彼女が自ら進んで被写体として選んだ人物が、
このロレントの遊撃士協会に所属しているという。
ドロシーはホテルに荷物を預けると、
早々に遊撃士協会を目指した。
「あら、ドロシーじゃない? 久しぶり」
扉を開けるなり掲示板の奥から声が聞こえた。
「アイナさん! 覚えてくれてましたか〜」
懐かしさにうれしくなったドロシーは、普段から
締まりのない顔をさらに崩して歩み寄った。
「もちろん覚えているわよ。
今日はナイアルは一緒じゃないの?」
ドロシーに手を握られながらアイナが聞いた。
「ナイアルさんは他の用事で忙しいので、
今回はわたし一人です」
そう答えると、ドロシーは丸いメガネを触り
「一人前のカメラマンなので」と胸を張った。
こういう仕草はあまり成長していない。
「フフ、それで今回はどういった用件で?」
アイナは微笑を交えていった。
「最近評判の準遊撃士さんをカメラに収めにきました」
そういうとアイナに顔を近づけて続けた。
「なんでも資格を取ったばかりなのに
すごい実力だとか」
「ああ、彼なら今、ミルヒ街道で暴れている
魔獣退治の仕事に出掛けたわ」
「今ですか! アイナさん失礼します!」
躍動感のある写真を撮るチャンスを逃すまいと、
ドロシーは会話を途中で切り上げて
ミルヒ街道へ駆けていった。
「ドロシー!」
慌ててアイナは叫んだが、
その声はドロシーに届かなかった。
ドロシーは困っていた。
「勢いで出てきてしまいましたけど、そうですよね。
魔獣退治の依頼があるということは、
魔獣が出るということですよね」
カメラを構えたドロシーの前には、
体長五メートルはある、見るからに凶暴な魔獣が
立っている。
試しに一枚写真を撮ってみたが、
魔獣は怒号ともいえる声を上げ、
事態をさらに悪くした。
「ぜ、絶体絶命です! エステルちゃん!」
身動きがとれなくなったドロシーは、一番仲のよい、
そして頼りになる遊撃士の名前を叫んでいた。
魔獣がドロシーに一歩近づいたその時、
ものすごいスピードで魔獣の前に一人の男が表れた。
「……ヨシュア君?」
このスピードの持ち主をドロシーはよく知っていた。
しかし、目の前にいる人物はまだ少年に見える。
「あんた、昔エステルとヨシュア兄ちゃんと
一緒にいたカメラマンだよな」
少年がふり返り、口を開いた時には
魔獣はその場に倒れていた。
手にロッドを持っている。
ほとんど見えなかったが、見事な棒術だ。
「二人は元気か?」
ドロシーは、昔エステルに食って掛かる少年を
思い出した。今回の被写体だ。
「は、はい。相変わらず活躍しています」
危機を脱したドロシーは少し安心して答えた。
「そうか。まぁすぐに追い抜くけどな」
そう答えると青髪の準遊撃士ルックは
唇の端を片方だけを上げて笑った。 |