■フリッツ・ディンター上等兵
【タイトル】 |
帝国戦車兵の日記 |
【作者】 |
フリッツ・ディンター上等兵 |
・七曜暦1192年4月6日
記念すべき開戦初日。中隊指揮車付き砲撃手である私
は、たいした戦果を上げることが出来なかった。幸いな
るかな、私の中隊長は個人の戦果をさほど重視しない新
しいタイプの軍人だ。帝国には珍しい。
私たちの連隊はこのリベールを西回りに進軍する。い
ろいろと観光ができそうだ。
・七曜暦1192年4月28日
連隊は敗残兵の掃討という、損な役回りを引いたよう
だ。今頃、先鋒部隊にいる同期達は華々しく戦っている
のだろうか。少し悔しい。
鬱憤が溜まっていた我々中隊は、件のジェニス学園に
「偵察」に向かうことにした。話によると、そこは美少
女の集う天国のような場所らしい。目の肥やしにでもし
ようと思ったが、当然というべきか誰も居なかった。落
胆して戻ったところ、主計長から飯を抜かれた。中隊長
は素知らぬふりだ。
・七曜暦1192年5月10日
中隊長が言うには、帝国はすでにリベールのほぼ全土
を掌握し、首都と敵要塞を残すのみだそうだ。全く実感
がないのはなぜだろうか。正直、ここまでまともな戦闘
は一度も行っていない。そんな我らの任務は、共和国国
境の砦での警戒・・・とは名ばかりの仕事だ。いっその
こと、共和国が攻めてくれば良いとさえ思う。
・七曜暦1192年5月25日
友軍が攻略にかなり手こずっているらしい。私の部隊
はまだだが、つい先程も別の大隊が前線に送られた。次
は私達の番か。我々の戦車を以てして苦戦するとは敵も
なかなかやるということだ。楽観しすぎたかもしれない。
・七曜暦1192年5月30日
なにやら将校たちが慌ただしい雰囲気だ。会話の端々
から察するに、どうも敵の新兵器が現れたらしい。我々
の戦車よりも強いのだろうか。中隊長に聞いても要領を
得ない。不安が増すのみだ。
書いている内に出撃命令が来た。しかも全部隊にだ。
この砦を空にするまでの事態が起きているのか・・・。
・七曜暦1192年6月13日
本日、中隊長が戦死なさった。敵新兵器「鉄の鳥」の
攻撃によるものだ。中隊長はハッチから上半身を出して
いたが、そこを爆弾の破片にやられたのだ。だが、もは
や涙は出ない。戦友達は殆どやられてしまった。中隊は
ほぼ全滅し、今では私が最上位だ。夢ではない。
・七曜暦1192年6月28日
まだ生きている。道なき森を進んで2週間が経つ。食
料はほぼ底をつき、私たちは飢えに苦しめられている。
すえたパンでも良い、腹一杯に食べたい。
ハーケン門が近いらしい。藁をもすがる思いだ。ここ
で死んでたまるものか。
・七曜暦1192年6月29日
ハーケン門の前にはヴェルテ橋がある。近くて遠いと
はこの事か。だが、ここを突破すれば故郷へ帰ることが
できる。飢えに苦しまなくて済む。援軍が救出してくれ
る。私は覚悟を決めた。かならずここを抜いて、生きて
帰るのだ。私は生への渇望を実感している。帰るのだ。
生きて帰るのだ。 |