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■かずぃ

【タイトル】 逃避行の果てに(4)
【作者】 J・S

 巨大な質量が落下し、保守点検用に組まれている床を
震わせた。
 あまりの衝撃に、黄色い魔獣の身体がプヨンプヨンと
上下に揺れ動く。
 慣性で鞭のようにしなる黄色い魔獣の触角(?)を
避けながら、落下してきたものに目を凝らす。
「んな…!?」
 巨大な魔獣がそこには鎮座していた。
 色や大きさは違うが、黄色い魔獣と同じ姿をした
水色の魔獣。
 ブヨンブヨンとゼリー状の身体が衝撃に揺れている。
 不意に、その巨大な魔獣の触角(?)がしなり、
襲いかかってきた。
「ぐわっ……!?」
 凄まじい衝撃と共に身体が吹き飛ばされる。
 一瞬とんだ意識は着地の痛みで強引に引き戻され、
全身の悲鳴をあますことなく聞く。
 何なんだ一体。
 何なんだよ、あのデカブツ?
 絶対反則だって。
 何故こんな目に…?
 やはりこれは罠だったのか…。
 絶望に打ちのめされそうになりながら、黄色い魔獣を
目で探すと、巨大魔獣の触角(?)に吹き飛ばされて
床にべチャリと広がる様子が見えた。
「……え?」
 仲間じゃない、のか?

 巨大な魔獣は縄張りを侵された怒りからなのか、
触角(?)で床や壁をむやみやたらと叩いている。
どうやら我を失っているらしい。
いや、魔獣だから元々がそういう性質なのかも
しれないが。
時折飛んでくる触角(?)を何とかかわしながら、
黄色い魔獣の方へと這って近づく。
「おい…大丈夫かよ…?」
小声で話しかけると、ピクリと反応があった。
どうやら息はあるらしい。
と思う間に、潰れた黄色い魔獣の身体が盛り上がり
始め、ついには元の形に戻ってしまった。
しかも、飛び散った肉片もいつの間にか一つになって
いる。
あまりの生命力に半ば呆れながらもほっとした。
やはり、何かしらの情のようなものをこの黄色い
魔獣には感じているらしい。
黄色い魔獣は立ち上がると、触角(?)を避けながら
意外にも素早い動きで巨大魔獣の元へ近寄っていく。
「お、おい…危ないって…!!」
頭上をかすめとぶ巨大魔獣の触角(?)を転がり
よけながら、黄色い魔獣に向かって叫ぶ。
が、黄色い魔獣の動きは止まらない。
やがて、黄色い魔獣は巨大魔獣の元に辿り着き何かを
楚々と差し出した。
…チーズだった。

〈続く〉

■かずぃ

【タイトル】 逃避行の果てに(5)
【作者】 J・S

「何故!?何でこんな時にチーズなんだ……よ……?」
 巨大魔獣の動きが止まった。
 広い地下空間の中には水音と、先ほど巨大魔獣が
暴れた際に破損した、壁などの破片が落ちる音だけが
響いている。
 どうやら巨大魔獣は献上品のチーズに見とれている
らしい。それ以前に、何故黄色い魔獣も巨大魔獣も
チーズに食いつくのだろう?
 …と思っていたのもつかの間、黄色い魔獣の身体が
再び吹き飛んだ。
 グチャリと異音を響かせながら、黄色い魔獣が落下。
床に黄色いゼリーがだらしなく広がる。
 献上品作戦は失敗だったらしい。
「……マジ、かよ……」
 冷や汗が流れる。
 魔獣との交渉の仕方など分からない。
 それ以前に、あの黄色い魔獣が人懐こかったことが
異常だったのだ。
 元々手元にカードなど無かった。
 ここまで来て諦めるしかないのか…。
 覚悟を決めて目を閉じた。
 閉じるしかなかった。

 だが、いくら待っても攻撃を受ける気配は無かった。
それどころか、水音くらいしか聞こえてこない。
「……?」
恐る恐る目を開けてみる。
巨大な水色の魔獣は、居た。
場所は変わっていない。
耳を澄ますと水音に混じってかすかにピチャピチャと
音がする。
どうやら献上品のチーズを取り込んでいるらしい。
チーズ……。
慌てて黄色い魔獣も探す。
黄色い魔獣は…居ない?
先ほど伸びていた場所には既に何も無い。
痛む首をめぐらせるが、姿は見えない。
「ま…まさか……?」
死んだ…?
自分を守るために…?
同族(形から判断して、間違いないと思う)に
殺された…?
吐き気とともに何かが込み上げてくる。
「ば…馬鹿なヤツ……くそっ…!!」
頬を伝うものをぬぐう気力も無い。
ただただ、短い付き合いだったあの妙な黄色い魔獣の
ことが悲しくて仕方が無かった。
涙は冷たい床に染み込んでいった。

 ピタピタ。
ピタピタ。
ピタピタ…パチンッ。
「い、いってぇ……!?」
涙でグチャグチャに歪んだ視界に黄色いものが映り
こんでいる。
黄色い、もの…?
急いで瞬きを繰り返す。
痛む腕を気力だけで動かして、袖で顔をぬぐう。
「……あ」
予想通り、あの黄色い魔獣が頬を叩いていた。
出会ってからずっと、起こす時にやっていたのと
同じように。
また視界が滲み出す。
「ま、全く…お前ってヤツは…」
だが、黄色い魔獣の方は再会を喜ぶ気配など見せず、
立ち上がるよう促してくる。
「……?」
ゼリー状でやや頼りない魔獣の身体を支えに、
傷だらけの身体を立ち上がらせる。
自立しようとするとぐらつくが、何とか歩くくらいは
出来そうだった。
(…まだこんな体力が残ってたんだ…)
チーズに夢中になっている巨大魔獣には目もくれず、
黄色い魔獣は奥へ奥へと誘おうとする。
足を引きずりながら後を追う。
地下施設の奥へ、奥へ。

〈続く〉


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