■くろすぎあ
【タイトル】 |
黄昏時の夢の中 |
【作者】 |
くろすぎあ |
影の国から帰還後、ケビンとリースの二人は異界化
された場所を調査して回っていた。その日は湖畔の
研究所に来ていたが、終わって外に出ると、そこに
は見事な夕焼けが広がっていた。
空は黄金色に輝き、その光が湖に反射して木々を
染め、その色が再び空に溶けていく。
「きれい…」
「…」
ケビンはその光景に見惚れてしまい、言葉がでて
こない。半年前に湖畔でみた夕焼けも、同じ様に
素晴らしかった。だが…
ふと隣に視線を向けると、リースの横顔が目に
入った。その顔は夕焼けの陽に染まり、景色の
美しさに柔らかく微笑んでいる。
「…」
その時、リースがケビンを振り返った。自分を凝視
していたケビンを不思議そうにみる。
「ケビン?」
「あ、ああ…いや…」
ケビンは胸の辺りに変な感じを覚えながら、再び
湖の方をみる。
「なんかな…前にここの夕焼けをみたときも、
きれいやなあとは思ったんやけど…そんときは…
なんか、遠い感じがしたんや」
「…」
「オレは…このきれいな景色には似つかわしく
ないっちゅうか…そんな気がしてな」
「…ケビン…」
美しく暖かい夕焼け。それとは対極にある、自分の
醜さが辛かった。ただ美しく在るその光をみる度に、
己れの暗い冷酷さ、罪の黒々とした重さを思い
知らされ、苦しくなった。
遠い目をして空をみつめるケビン。その姿をみる
リースの胸は、小さく鼓動する。沈む太陽に
向き直ってつぶやいた。
「…私は…」
ケビンは少し離れて立つリースをみる。その顔は、
少し寂しげに微笑んでいた。
「…アルテリアの寮の部屋からみる夕焼けは、
とっても綺麗だった。大聖堂がきらきら輝いて…
まるで夢の中みたいに」
「ああ…そうやろな…」
「でも…綺麗だけど、みていたら…悲しくなった」
「え?」
「だって、独りだったから」
「…」
リースはそっと目を閉じる。
「こんなに綺麗な夕焼けをみても、綺麗だねって
言える人がいない。姉様はいないし…ケビンも
みてるかもって思えればよかったけど、
どこにいるかわからなかったから」
「…」
「ああ、独りなんだなって思ってた。
夕焼けをみて、夜がくる度に」
「リース…」
ケビンがリースの方を向こうとした時、リースは
ゆっくり目を開けた。
「だから、今はすごく不思議」
「え?」
「暖かく感じるの、夕焼けが。
…もうすぐ夜がくるって、わかってるのに」
もう独りじゃない。
これからは、私のそばに…あなたがいるから。
「リース…」
何か言いたげに、だが言葉がみつからず立ち尽くす
ケビンを振り返って、リースは聞いた。
「ケビンは?」
「え…」
「今は、どう感じるの?」
「…」
ケビンはリースをじっとみつめると、湖へ足を向け、
橙色の空を見上げる。
「そうやなあ…」
「…」
暖かい沈黙の後、ケビンはふっと目を細め、
ゆっくりと口を開いた。
「ああ…きれいやな…ほんまにきれいや」
「…うん」
リースは優しく微笑んで、湖上の空へと目を向ける。
2人は同じ夕焼けを、並んでいつまでもみつめていた。 |