■峯蔵 秋
気が付けば、何処かの建物の一室にいた。部屋に呼び
に来る大人が一人。いつも白衣を着ていた。
「ゼクス、メンテの時間だ」
名前は番号。自分は六人目だと、誰かが言った。メン
テナンスと称して、体内に薬を打ち、身体を弄る。
自分は何者で、誰なのか。一度見た映像を見れば、寸
分の違いなく、動きを模倣する事が出来る。
そんな日に終わりを打ちたい。目の前を通り過ぎる屍
を見る度に思い、衝動に従った。
悪夢の建物から逃げ出して十年。自分は建物にいた人
を殺め、どうやって外の世界に飛び出せたのか解らない。
ただ、今こうして成長し続けれるのも、目の前にいる
神父の御蔭だ。
「ケビン神父! シスターリースが探してましたよ?」
「そうか。じゃあゼクス、俺の代わりに使いを頼まれて
くれへん?」
「はい、ケビン神父!」
ケビン神父から使いの内容を聞き、目的地へと向う。
その後ろ姿を、ケビン神父は見送った。
「ケビン」
「リースか」
「ゼクス、昔に比べて笑うようになったね」
「あぁ。けど、あの子は自分が誰なのか解ってない。初
めて会った時の太刀筋、ヨシュア君やリシャールさんと
全く同じ剣筋で攻撃してきた。二人は面識が無いと言っ
ていたし、ゼクスは一体何者だろうね?」
「ゼクスはゼクス。過去に何があろうと、私達の知って
いるゼクスに変わりない」
教会を出た後にそんな話がされているとは露知らず、
頼まれた使いを終わらせた帰路で、大型の魔物と対峙す
る破目になった。
「相手してやるよ。身体が疼いているんだ」
この高揚感が何なのか、俺は何も知らないでいた。 |