石畳の道がただ真っ直ぐに、赤茶色の地平へと伸びている。
私とドギは、エウロペ大陸南部、イベル半島東岸の街道を南へと向かっていた。整然と敷き詰められたその石の道は、半島の付け根に位置するバレシアから始まり、南部の乾燥地帯を突き抜けて、半島南端のエディスまで延々数百クリメライも続く。
私たちの目指すエディスは、遥か昔にオリエッタの民によって開かれた辺境の自由都市だ。外洋への玄関口として名高い港であり、直轄地ではなかったがロムン帝国との関係も深く、その艦隊の寄港地として知られていた。
私は顔を上げ、街道と空とが直角に交わる彼方の地平を見つめた。見渡す限り、旅人の姿はおろか、樹木の影すら見当たらない。湿潤な北部のセルセタ地方とはまったく対照的な不毛の地だった。目に映るものと言えば、ひたすらに赤い地面と、濡れた青金石のように濃い青空だけ。
"イベル半島に入れば、そこはもうアフロカだ"
私はバレシアで耳にした言葉を思い起こした。確かにその通りだった。この赤土の荒地も、不毛さにかけては砂漠と何ら変わりがない。空気は喉を焼くように熱く、大地はどこまでも乾いている。しかしこの荒野には、私たちの求めるものはなかった。誰も不毛さに憧れてアフロカに赴くわけではない。求めるもの、それはまだ誰も目にしたことのない世界だ。
遠く、陽炎の中に帝国の里程標を見つめながら、私たちは黙々と左右の足を動かし続けた。彼方のアフロカへ向かうため、そしてかの地で待ち受けるものを、他ならぬ自分の目で確かめるために……。

アフロカとオリエッタの狭間に位置する、あのサンドリアでの冒険から、早くも3年の月日が流れようとしていた。
20代前半の青年期を迎えた私は、ようやく世間の一部から冒険家として認められるようになっていた。まだ冒険家として未熟な部分も多かったが、愛する旅を生活の糧とし、充実した人生を送っていた。
私の冒険に価値を見出してくれたのは貿易商たちだった。この頃ロムン帝国はしばしば大掛かりな外征を試み、周辺諸国を取り巻く情勢はめまぐるしく変化していた。新鮮な情報に飢えていた商人たちにとって、実際に各地を旅してきた私の見聞は代価を支払うに足るものだったようだ。中にはかなり高額の報酬で、直接冒険の依頼を持ち込んでくる者さえいた。相変わらず裕福とは言いがたかったが、旅から旅へと渡り歩く生活を、私は楽しんでいた。
幸福な生活の一方で、未知の世界への憧れはさらに膨らんでいった。サンドリアでのあの忘れがたい冒険の記憶のためか、はるか遠い異国の地に私は強く惹かれていた。オリエッタ、アフロカ、そしてアトラス洋……。茫洋と広がる見知らぬ世界への旅立ちを、私は夢見ていた。
そんなある日、一つの知らせが私のもとに届いた。北西アフロカで続いていた都市国家との戦いが、数年振りに停戦したという知らせだった。サンドリアでの冒険の後、北西アフロカに渡ろうとした私の行く手を阻んだのもこの戦いだった。
北西アフロカの都市国家は、ロムン帝国の宿敵ともいえる勢力で、これまでも幾度となく衝突と和睦とを繰り返していた。今回も、遅かれ早かれ再び戦端が開かれることは間違いない。
私の体の中を何かが駆け抜けた。若き日、エステリアへの旅の途中で感じたものと似た、言い知れない感覚だった。この世界には人の意志と、それ以外の力が働いている。誰かに呼び寄せられるような不思議な高揚を、私は心のどこかに感じていた。
その数日後には、イベル半島東岸の港町バレシアで、旅仲間のドギと久しぶりの再会を果たしていた。エステリアで知り合って以来、過酷な冒険に向かう私の隣にはいつもこの大柄な元盗賊の姿があった。背にした白漆喰の壁のせいか、彼の顔は以前よりだいぶ日焼けしたように見えた。ドギは「よう」とだけ言って笑顔を向けると、私の横に立って歩き始めた。
私たちはその日のうちにエディスに向け出発した。そこからアフロカ行きの船が出ているという話を聞いたからだ。ロムンの国章、星光(せいこう)の刻まれた石柱で里程を確かめながら、私たちは街道を南へと急いだ。遥かなアフロカへと思いを馳せていた私たちは、見えざる力によってエディスに引き寄せられていることに、このときまだ気づいていなかった。
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