■ARIA
——ロイドなんか、 キーアのホントウのカゾクじゃないくせに! だいっキライ! その瞬間、空気が凍ったのをエリィは思い出す。 かける言葉を失ったロイドが、 そのまま動き出すことができなかったくらいに。 エリィですら、その言葉には激しい衝撃を受けた。 それでもとっさに動き出せたのは、 自分が矛先ではなかったからかもしれない。 エリィは隣に座るキーアを見やる。 いつでも花のような笑みを絶やさない彼女が、 今はしおれた花のように俯いている。 エリィはキーアの顔を見つめて言った。 「どうして、嘘を吐いたの?」 「……」 「授業参観の手紙が捨てられていたことに、 関係してるかしら?」 キーアがばっと顔を上げる。やはり。 ゴミ箱に授業参観の出欠票が捨ててあったのを、 エリィが処理したのだ。 キーアは気まずそうに黙り、やがて唇を開いた。 「……ほかのともだちはね。 ホントウのパパやママが来るんだって。 キーアちゃんのおうちは、だれがくるのって」 キーアには、ないから。 切なそうに目を伏せるキーアの表情に、 エリィも目を伏せざるを得ない。 どんなにエリィたちが頑張ろうと、 彼女の本当の家族にはなり得ないのだから。 「きづいたら、おてがみをすててて…… ウソ、ついちゃって…… ロイドに、キライっていっちゃった……」 涙で震えるキーアの声。 居住区の階段が影になり、 それが余計に切なげな顔を際立たせる。 「もう、ロイドたちのカゾクじゃ、 ……なくなっちゃったよ」 まるで泣き出す寸前のような声だった。 その姿に幼き日の自分が重なる。 エリィはたまらずキーアを抱きしめた。 びっくりしているキーアに、 エリィは震える声で言う。 「そんなことない。キーアちゃんは、 私たちの大事な家族よ」 「え……」 キーアがエリィたちと家族になりたい—— そう言ったとき、どれだけ嬉しかったか。 声が震えないようにエリィは努めて訴えかける。 「いくら家族でも、喧嘩くらいはするわ。 時には傷つけたりすることだってある。 でも、それを解決できるのも家族だと私は思う。 それは、血の繋がりなんて関係ないはずよ」 「……あ……」 何かに気づいたようなキーアの声。 エリィはそっと微笑んだ。 「誰がどうのじゃないの。 キーアちゃんが私たちを家族と呼んでくれるなら、 私たちはキーアちゃんの家族だわ」 「エリィ……」 キーアを放し、肩をそっと掴んでエリィは言った。 「謝りに行きましょう、ロイドに。 授業参観に来て欲しいって。 ほかの子に言っちゃえばいいわ。 あなたの家族は他の誰にも負けないくらい、 キーアちゃんを大事にしているんだって」 そう言うと、キーアは震える声で頷いた。 そんなキーアを見つめながら、 エリィは今日はこのまま手を繋いで帰ろうと思った。 ロイドがいつも彼女にしているように。 自分も彼女の家族なのだと、胸を張って言うために。 |