■ホルダ
とある辺境の村に一匹の黒猫がおりました。
目が琥珀の色をしていたので、
この黒猫は琥珀猫と呼ばれていました。
ある日、琥珀猫の元へ茶色の雌犬がやってきました。
緋色の瞳と明るい性格から
火輪と呼ばれている犬です。
火輪はよく琥珀猫に構いたがります。
今日の火輪は興奮気味でした。
「ねえ、変なものが落ちてきてるわよ!」
琥珀猫は、火輪の案内する
村の外れへとやってきました。
なんとそこにあるのは墜落した飛行艇でした。
「動物がたくさんいる匂いがするんだけど…」
鼻の利く火輪が表情を曇らせます。
「お客が待ってるから早く修理しろよ」
飛行艇から出てきたのは三人の男でした。
修理修理と口々に言う男たちは、荷物を
せっせと運び出しました。
その荷物を見て、火輪は驚きました。
荷物とは、動物たちが閉じ込められた
ケージだったのです。皆悲しそうに鳴いています。
二匹は話を聞くことにしました。
二匹は男たちの目を盗んで、ある
白いハヤブサの入ったケージに近寄りました。
「私たちは、友人のもとから盗み出されてきました」
ハヤブサは初対面の二匹に臆することなく事情を
伝えました。そして、協力するよう頼んできました。
そこで、琥珀猫は一つの作戦を立てました。
「逃げたぞ!」
叫び声に、男たちは皆空を見ました。
ハヤブサが空中を旋回しています。
「どこから逃げやがった、あれは高そうなのに!」
男たちはどこかへ行くハヤブサを追いかけました。
その隙に、琥珀猫と火輪は
次々とケージを開けていきます。
「村の近くにある港の船に忍び込めば、きっと
元の場所に戻れるわ。頑張って!」
火輪は動物たちにそう伝えて送り出しました。
やっと全ての動物を開放し終え、
ハヤブサの安否が心配される中、
修理のため残っていた一人が、
飛行艇から出てきました。
男はケージの状態に仰天した後
見送りから帰った火輪を見つけてにじり寄りました。
「その両耳についている飾り……
こうなったらお前だけでも売り飛ばしてやる!」
火輪は不意を突かれて転倒しました。
男は大股で火輪に歩み寄ります。
そこで琥珀猫が腕にとびかかりました。
男は琥珀猫を振り払い、琥珀猫と対峙しました。
所詮猫と男は思いましたが、
猫の琥珀だった瞳が黄金になり、
急に殺気を放ち始めました。
男は自分でも驚くほどに怖くなって、
あっさり飛行艇に戻っていきました。
その頃戻ってきた男たちの手元に
ハヤブサはいませんでした。
怒った男たちは、修理を終えると
すぐに去ってきました。
その後、ハヤブサが村にやってきました。
「皆さんのおかげで皆が脱出できました。
ありがとうございました」
そして飛び去ったハヤブサの横顔は
赤らんでいるようでした。
もっとも、それに気づいたのは
火輪だけでしたが。
「あたしも……ありがとう!」
火輪は琥珀猫に言いました。
「庇ってくれて。助かっちゃった」
火輪の名の通りの笑顔に、琥珀猫も笑顔で返しました。
またその瞳は、いつもの琥珀色に戻っていましたとさ。 |