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■ホルダ

【タイトル】 道化師の絵本
【作者】 ホルダ

 ──気の遠くなるぐらい、昔の出来事です。
女神様がこの世に授けた《宝物》で、
空の街はこれ以上ないほどの栄華を誇っていました。
空の街に住んでいた人々は、
みんな《宝物》から奇跡を受け取っていました。

 そんな中、空の街に住むある一組の夫婦は、
自分の子供を亡くしてしまいました。
その子供は、とても優秀でしたが、
夫婦の望むものすべてを備えてはいませんでした。
夫婦はそれを認めません。お前はもっとできる子だ、
なにせ、自分たちの子供なのだから、と……。
子供は夫婦の望む所業に耐えきれませんでした。
子供を亡くした夫婦は、嘆き悲しみました。
そして《宝物》に祈ります。

「どうか、私たちに子供を返してください。
私たちの本当の子供、私たちの望む子供を下さい」

 《宝物》は、夫婦に奇跡を起こしました。
奇跡により現れた子供は、特殊な力を備えていました。
自分の年齢を変えられるため、夫婦の望む、
愛くるしい姿のまま、幾年も生きることが出来ました。
しかし、夫婦は子供を気に入りませんでした。
年齢が変化する子供を不気味だと周囲は怖がり、
夫婦もまた、それを否定しませんでした。

 数年後、夫婦は、《宝物》に祈りました。

「あれは人間ではないように思います。
どうかあれを取り消してください。
そして、今まであれが生きた人生を
別の新しい子供と取り換えてください」

 《宝物》は奇跡を起こそうとしました。
しかし、別の人間が生きた軌跡を、別の人間と
すりかえれば、当然ながら矛盾が起きます。
その子供が本来はしないこと、できないことを、
無理やり「した」ことにしなければ、
夫婦の願いは叶いません。

 ──だから、《宝物》は、自分が生んだ子供を
取り消しませんでした。
その代わり、夫婦の望む新しい子供を夫婦に与え、
年を取らない方の子供も生かせ続けました。

 しかし、そのまま、ではありません。
年を取らない子供は消えました。
世界からではありません。記憶から、です。
その子供は誰に会っても誰の記憶にも残りません。
《宝物》の手に届くもののすべては、
その子供の存在を認めません。
《宝物》の手の届くもののすべては、
その子供の存在を忘れてしまいます。

そうすれば、子供の存在は残るので、
生きた軌跡が残っても矛盾は起きません。
でも、子供はいないのと同じ。
なぜなら、誰もその子供が生きていると
知ることはないのですから。
子供は自分の年齢を偽り続けました。
子供のまま、生き続けました。

 《宝物》から離れる時が来るまで、
ずっと、ずっと、その子供は生き続けました。
《宝物》から離れた後も、子供の姿のまま
生き続けていました。
ずっと、ずっと、そして、今も。

 さらに多くの時が経ち、
《宝物》が封印された頃、《宝物》までも、
その子供の存在を忘れていましたとさ。

おしまい。


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