■23時の人
【タイトル】 |
イリア・プラティエの盗難事件 |
【作者】 |
23時の人 |
「ところで何を盗まれたんですか?」
「んっと、下着で履く物ね」
イリアからの答に、ロイドの手からエニグマが吹っ飛
ぶ。
ここは彼女の部屋。単独での巡回中にイリアから相談
をもちかけられたが。
「後でエリィとティオが来ますので、詳細はそちらで」
「あらぁ、別に弟君が捜してくれたっていいじゃない」
逃げるロイドを、イリアが抱きついて止めてきた。
「いや、こういう案件は女性が捜査すると決まっている
んです!」
焦りながらロイドが述べると、イリアは少しむくれな
がらも離れてくれる。
(た、助かった……)
盛大に安堵してから、落としたエニグマを思い出す。
慌てて拾いに行っていると、紙袋さげたリーシャが部屋
に入ってきた。
「ロイドさん、どうしたんですか?」
「ちょっと相談を受けてね。リーシャは?」
「私はシュリちゃんからイリアさんの洗濯物を預かって
きて……」
リーシャは紙袋をイリアに渡した。
「劇団長達の分もあるのに律義な子ねぇ。あたしは替え
が無くなってからでもいいのに」
イリアは紙袋の中を覗き、「やっぱり無いわね」と、
ため息つく。
「そうですか……」
落胆するロイドに、「相談って、盗難ですか?」リー
シャが真剣な顔になる。
「そう、貴方に頼んで贈って貰ったアレが無いの!」
ロイドより先にイリアが騒ぐ。と、リーシャが顔をひ
きつらせ絶句した。
(……アレ?)
ロイドの中に違和感が出てくる。
「いくらイリアさんのとはいえ、あれを盗むなんて……」
ひきつった顔のままなリーシャを見て、ロイドの違和
感は更に増え、そして気が付いた。
ある事実があれば、違和感が一つの可能性になる。
ロイドは軽く深呼吸すると、確認の為リーシャに尋ね
た。
「弟君ってば凄いじゃない! やっぱ相談して良かった
わー♪」
戻ってきたアレを手にイリアがはしゃぐ。
「シュリちゃんが、劇団長さんの洗濯物に混ぜてごめん
なさいって」
「そんなの戻ってきたからいーわよ♪」
語尾に合わせてイリアは手に持つアレにキスをした。
ロイドとリーシャの顔が激しくひきつる。
「でも、いきなりロイドさんから、あれを他の人に贈っ
た事があるかどうか聞かれたのには驚きました」
慌てて話を逸らしてくるリーシャに、「先に違和感が
あったからね」とロイドは返した。
「物の名称は知らないのに、リーシャにせがんだ」
つまり。
「物は女性が使用するようなのではない。リーシャが誰
かに贈ったのを見て自分も欲しくなった」
そして実際その通りだった。
「劇団長の洗濯物から見つかったのはただの幸運だよ」
暗い顔で謙遜するロイドに、「でも、あれを選んで盗
む人は……」と、リーシャがぼやいた。
「あら、これも十分な価値はあるわよー」
イリアが唇を尖らせ、手にしたアレ——男性用の股引
きを掲げる。
「軽くて暖かいから寝巻に最高なのよ♪」
「だからって、それを愛用するのは……」
涙声なリーシャにロイドも泣きたい気持ちで頷いた。 |