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■えみり

【タイトル】 続・重剣流特訓法(その5)
【作者】 えみり

 ディンとレイスが謎の人物に襲われている頃。

「この先が最後のようだが…」

 ロッコは小要塞の最深部へ向かって歩き出す。
だが、目的の扉の前に誰かが立っていた。

「うふふ、ようこそ…」

 そこにいたのは、スミレ色の髪をした少女。
フリルのついたワンピースを纏い、可憐な風貌をして
いるが、手には大きな鎌が握られている。

「て、てめぇは!?」

 ロッコはその少女を知っていた。

 レン。
かつては「結社」と呼ばれる組織に属し
「殲滅天使」という異名を持っていた少女。
数多の人々の命を奪ってきたのだが、今では組織を
抜け、ある遊撃士に引き取られて普通の生活を送って
いると聞いていた。

「何でここにいやがる!?」

「レンは気まぐれなの。
どこで何をしようとレンの自由よ」

 そういうと、レンは微笑みながら鎌を持ち直した。
どうやら戦う気らしい。

「さぁ、始めましょう…♪」

 レンはすかさず鎌を振るい、ロッコを切りつける。
それで怯むロッコではなく、スタンロッドでレンに
攻撃を仕掛ける。
だが、実力の差は明白だった。
レンの素早い攻撃の前に、ロッコは殆ど攻撃を当てる
ことができない。
体力だけが削がれていく。

 回復はレイスのアーツに任せっきりだったので、
ロッコのオーブメントには回復系のアーツが組まれて
いなかった。
手持ちの回復薬も乏しいため、短時間で決着を付ける
しかない。

『てめえの負けん気の強さとその行動力は認めるが…
まだまだ冷静な判断が足りねえ。
そんなんじゃ幾つ命があっても足りねえだろう』

 準遊撃士の試験の評価として、アガットから受けた
言葉を思い出したロッコ。

「冷静って…何をどうすりゃいいんだよ…!」

 必死に考えるが答えは出ない。
ロッコはひとまず、やみくもに突撃することを止め、
相手の攻撃をかわしながら考えを思い巡らせた。

「(…相手は子供だ。
一撃まともに決まれば何とかなるはず…)」

「あら、疲れちゃったのかしら?
じゃあ、そろそろ殲滅してあげる…!」

 レンはやや距離を取り、助走を付けてロッコに
向かってきた。
だが、ロッコはそれを待っていた。
レンの鎌の動きを凝視し、一瞬の隙を伺う。

「そこだっ!!」

 ロッコの、ありったけの力を込めた一撃。
その勢いで、レンは数メートル先まで飛ばされた。

 攻撃を受けたレンは、すかさず体制を立て直す。
だが、得物を構え直す様子はない。

「…ふぅ。なかなかやるじゃない、お兄さん」

「はぁ、はぁ…まだやるってのか…!?」

 微笑むレンとは反対に、ロッコは肩で息をしながら
喋るのがやっとの状態である。

「もう戦う気はないわ。
おしまいにしましょう。
レンも疲れちゃったもの」

 そう言うと、レンは鎌を置いた。

■えみり

【タイトル】 続・重剣流特訓法(その6)
【作者】 えみり

 すると、レンの背後の扉が開き、中から見知った
男が姿を現した。

「よう、ご苦労だったな」

「…!!」

 ロッコは驚きのあまり、一瞬言葉を失った。
無理もない。
そこから出てきたのはアガットだった。

「どうしてあんたがここにいるんだ!?」

「まぁ、こういうことだ…おい、出てきていいぞ」

 アガットがそう言った瞬間、反対側の扉からディンと
レイスが現れた。

「お前ら!?」

「よう、お疲れさん」

「おつかれ〜♪」

 ディンとレイスがロッコを労う。
2人の後に続いて、黒衣の男と甲冑姿の女も現れた。
訳がわからず、ロッコは目を丸くする。

「やぁ、驚かせて悪かったね…」

 黒衣の男がロッコに言う。
直後、男は黒衣を、女は兜を外して姿を見せた。
現れたのは栗色の髪に赤い瞳の少女、それと黒髪に
琥珀色の瞳の青年。

「え、エステル、ヨシュア!?」

 少女の名はエステル・ブライト。
青年の名はヨシュア・ブライト。
ディンたちが遊撃士としての道を歩むきっかけと
なった人物であり、レンの保護者代わりでもある2人。
ディンの相手をしたのがヨシュア、レイスと戦って
いたのがエステルである。
各々の得物を使うと正体がわかってしまうので、別の
方法を使って戦っていたのだという。

「お前たちの訓練の一環で来てもらったってわけだ。
これからは1人で戦っていくことになるんだからな。
いい経験になっただろう」

 一通り状況を説明した後、アガットが言った。

「なんだよ〜。
てっきり何かに巻き込まれたかと思って来てみたら、
これも仕込みだったってワケか〜」

「ってことは、あの整備士もグルか…」

「そういうことになるな…」

 騙されていたことに悔しさを覚える3人。
だが、その表情には安堵の色がうかがえる。 

「あたしも正遊撃士になった後、ここで訓練したんだ。
同じように、先輩のお芝居に引っかかっちゃって。
あの時は『やられた!』って思ったけど…。
今となってはいい思い出だわ」

 エステルが懐かしそうに言う。
かつてエステルも体験した、こうした芝居による
「危機的状況の体験」は、ル=ロックルにおける慣例の
ようなものである。
今回は少し趣向を変えているが、本来は猟兵団を
模倣するなど、実際に起こり得る状況になぞらえた
演習が多いようだ。
もちろん、当の訓練対象者には演習終了まで一切
知らされないのだが。

「ま、新人遊撃士への洗礼みたいなもんだ。
これを機に、一層修行に励むこったな」

 アガットの言葉に、ディンたちは大きくため息を
ついた。


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