■スキュラ
それはこの一言から始まった。
「なあなあ」
「何か困り事かい、リュウ?」
俺が聞き返すと、リュウは妙に照れくさそうにしてい
た。その様子は普段とは少し違うようだが……
「リュウ……言いづらいなら、僕が訊こうか?」
「いや、俺が訊くよ。だから、アンリは……」
「うん、わかったよ」
リュウは辺りをキョロキョロと見回すと、
「……キーアは、いないよな?」
「キーアに用なのかい? キーアなら……」
「キー坊なら、お嬢とティオすけと一緒に買い物に
行っているぞ」
「だそうだ。キーアが戻ってくるのを待つかい?」
二人は首を横に振った。
どうやら、キーアに聞かれたくはないようだが。
まさか、キーアがイジメられているのか!
「キーアの……キーアの誕生日を教えてくれ!」
「…………へっ?」
予想とは違う答えに、俺はマヌケな声を上げていた。
「なんか俺……変な事訊いた?」
「あっ、いや、そんなことはないけど……」
「おいおい、ロイド。何を考えていたんだ?」
ランディは少し呆れた様子だったのが気になるが。
リュウとアンリの眼は真剣そのものだった。
その様子を見て、俺もランディも頭をかくしか
なかった。
……俺たちもキーアの誕生日知らないんだよな。
その夜遅く、俺たちは緊急会議を開催した。
「それは完全に盲点でした」
「そうよねー、私たちもキーアちゃんと一緒にいる
ことが当たり前だったから」
エリィもティオも困った顔している。
「キー坊が産まれたのは、500年以上も昔だろ」
「それに、キーアも記憶を取り戻していないからな」
俺たちがキーアの誕生日のことで、うんうんと頭を悩
ましていると、セルゲイ課長が口から紫煙をくゆらせな
がら、思いもよらない言葉を口にした。
「分からないなら、作ればいいだろ」
「なるほど、確かに課長の言うとおりです。流石、伊達
に歳を取っている訳ではないんですね」
「テ、ティオちゃん」
ティオの物言いにエリィがあたふたしていた。
「ったく、相変わらず歯に衣着せない物言いだな。
おじさん泣いちゃうぞ」
「それはともかく、キー坊の誕生日をいつにする?」
「そうだな……俺たちがキーアと出逢った日が妥当だと
思う」
「キーアちゃんと出逢ったのは……《黒の競売会》が
あった日だから……」
「創立記念祭五日目です」
「だがよー、そうなるとまだずっと先だろ」
「そうだな。だったら——」
俺は自分の考えをみんなに伝えた。その考えに、
「いいわよ、ロイド」
「ナイスアイデアです、ロイドさん」
「となると、キー坊に気付かれないように
準備しないとな」
こうして、俺たちはキーアの誕生日を決めた。
それから数日後——
「お誕生日おめでとう♪」
みんなからお祝いの言葉に、キーアは嬉しそうに
はにかんでいた。
「えへへ、みんな、ありがとう♪」
キーアの満面な笑みに、誕生会に集まった面々も
笑顔が零れていた。
来年も再来年も、みんなでこんな時間を迎えられます
ように。 |