■畑荒らし
気がつけば、柔らかい緑色の光に包まれていた。
足元はふかふかと快い弾力。草と苔のじゅうたんだ。
廃墟に面したそれほど暗くない森の中には、ところど
ころ上から陽の光が差してくる。上からの光がまっす
ぐ降りて、地面にゆるくまるく円を描いてかすかに揺
れている。
これは夢だとわかっている。夢の中の私は胸の高鳴
りを抑えきれず、草のじゅうたんの上をかける。私と
あの子しか知らない秘密の場所へ。うれしさを表すス
テップを踏んで、くるりと回り、小さく跳ねる。草が
散り、緑の香りを放つ。ひっそりと咲いていた白い花
が私の起こした風で揺れる。さわさわと木々も揺れる。
「今日は何をして遊ぶの?」と聞いてくる。
さあ、今日は何をして遊ぼうか。二人で新しい踊り
を作ろうか?それとも木の上で一緒にばあやが作って
くれた焼き菓子を食べようか?
「ねえさま?」
あの子はいつも私より遅い。きょろきょろと見回し、
私を探している。遊びの初めはかくれんぼから。後ろ
からそっと忍び寄って「わっ!」とおどかしたり、く
すぐったりしてびっくりさせる。怒ってむくれてぷっ
くりほっぺをふくらます。それをつっつくのが私の役
得だ。
まだふくれてるあの子に「ほら」とおやつを差し出
せば、たちまち機嫌が直る。今日のおやつはにんじん
色のビスケット。
「ねえさま、ねえさま! また、あの舞いを見せて」
あの子は、私がこの前母様から教わった森の動物た
ちの舞いがいたくお気に入りで、しじゅうせがむのだ。
私も喜んでこたえる。二人きりだから楽の音はないけ
れど、肩をすくめて小さなりすの動きをまねれば目を
輝かせ、かけすの騒がしい様子を演じればくすくす笑
ってくれた。手の動き、足の運び、どれ一つにも意味
がある。あの子は私の動きをまねて繰り返す。
私の可愛い妹。母様は私たちのどちらも素晴らしい
舞い手になれるとおっしゃった。まだ小さいけれど、
一緒に踊ると時間を忘れてしまうくらい楽しかった。
私の大きな跳躍をまねてちっちゃく跳ねる。まだしり
もちをついてしまうけれど、時々は空中でくるっと回
れるようになった。とても覚えが早くて誇らしくなる。
私たちが舞うと、まるで森の中に花が咲いたように
木の葉や花が飛び、渦を巻く。静かな森の中に、た
たたたっと私たちの足音が響く。呼吸が早くなる。掛
け声に合わせて私たちは息をそろえて跳び——そし
てあの子がしりもちをつく。
「あーあ」と私がため息をついてみせる。
「ねえさま、ずるい。あたしももっと高く跳びたい。
もう一回やろうよ」
口をとがらせて悔しがるから根負けしてしまう。
「わかったわ。じゃあ、今度は——」
そこでいつも目が覚める。一番幸せだった頃。母様
もあの子も一緒だった幼い頃。広い寝台は大人のもの。
森の香りはすでになく、甘い香がたきしめられている。
ここは女神の意志を争う「姫」のためにあつらえられ
た部屋。あの子はもう、いない。 |