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■星野ソラ

【タイトル】 恋というもの・三巻(1)
【作者】 星野ソラ

「呼吸の方は何とか正常に動き、
 落ち着いたのですが、
 まだ意識は戻っていません」
「……そうですか」
 いま俺は病院の廊下にある長椅子に座っている。
 いまから数時間前、突然アリッサが倒れた。
 なんとか周りの観客や係員の助けにより、
早く病院に着く事ができた。
 アントンは彼女のそばにいる。
 何でこんな事になったんだ……、
 たしかアントンの……
『やっぱりこの大会を見ていると
 僕にも闘志が燃えてくるよ!』
を聞いたあと様子がおかしくなったんだよな…。
 なぜなんだ…一体…。
「あの、アリッサさんの病室はここですか?」
 ふと俺は下がっていた顔を上げると
 そこにはジェニスタ王立学園の制服を
着た少女が立っていた。
 髪はパープルのショートで
落ち着いた気品が感じ取れる…あれ、この子って…。
「あ!リックスさん!」
「君はクローゼさんか!」
 彼女とはアントンが遊撃士に
依頼したときに会ったことがある。
 たしか、アリッサと同じこの子も
学園の生徒だったはずだ。
「リックスさんがいてくれたんですね…」
「まあたしかに俺もいるが、
アントンが付ききりでいる」
「アントンさんが…?」
「あぁ、そうだ」
「あ!それでアリッサは無事なんですか!」
「医者の言うには落ち着きだしたが、
 まだ意識が戻らないようだ」
「……そうですか」
 アリッサとは仲がいいみたいだな…、
かなり落ち込んでしまった。
「会場で倒れたのを見たとき、
 気が動転してしまいました…」
 ということは、会場に
クローゼさんはいたようだな。
 たしかに友人が倒れたら
いい気分にはなれんからな…。
「一体どうして……」
 もしかしたらクローゼさんならば
今さっきの状況を話せば
何かわかるかもしれない。
 でも、何か聞いてはいけないような気
がしてくる…、だけど、聞かないといけない。
「クローゼさん、話があるのだが……」
 クローゼさんに会場での出来事を説明した。
「…それ、本当ですか?」
「あぁ、本当だ」
 説明を終えた俺はふと彼女の目が
潤んでいるのに気が付いた。
「…まだ、アリッサは……」
 間違いなく知っている、
アリッサがなぜあの言葉で気を失ったのかを、
「なあ…もしよかったら俺に話してくれないか?」
「………」
「…そうか、話せないか…」
 なに言っているんだ俺は…
友人の安否が不安な子に友人に深く
関わりそうな事を聞きだしているなんて…。
「…いえ、アリッサのことを
 よく知っているあなたなら話せそうです」
 本当はアントンにも聞かせてやりたいが、
先に俺が聞いていたほうがいいだろう。
「まだ…あの子の足が自由に
動いていた2年前———」

 つづく

■星野ソラ

【タイトル】 恋というもの・三巻(2)
【作者】 星野ソラ

 アリッサには付き合っていた男子がいました。
 名前はウィル、彼女の同級生でした。
 いつも彼女は彼の傍におり、
彼も彼女の傍にいました。
 そんな彼は武術が好きで武術大会には
アリッサと一緒に見に行きました。
 彼は少年のように興奮し、
彼女から聞くにいつも
『やっぱりこの大会を見ていると
 僕にも闘志が燃えてくるよ!』
っと言っていたんです。

「あ!」
そういうことか…昔の彼氏と
アントンの言葉が偶然にも一緒だったのか。
「でも、昔の彼氏の言葉で気を失うのか…?」
「実はこの先が本題なのです——」

それは、去年の事でした。
アリッサとウィル君は一緒にカルバード共和国に
長期休みを使って旅行をする計画を立て、
旅行に出発しました。
ですが、乗っていた飛行船がエンジントラブルで
墜落し、大惨事になりました。
アリッサは重体で助け出され、
墜落付近であったクロスベル自治州の
医科大学で治療を受けました。
意識は戻りましたが……
足はもう自由に歩く事ができませんでした。
そして彼氏であるウィル君は……。
飛行船や墜落付近で発見されず、
行方不明になりました……。

「………」
彼女の足がうまく動かなくなったわけは
そういうことだったのか……。
そして彼氏ウィルの存在は
大きいかったのだろう。
彼の言葉は彼女の心に響いていたから
逆にトラウマとなってしまったようだ。
もしそうだとしたら、
アントンと付き合っている
彼女の目的はもしかして……。
そう俺が考え込んでいると、
突然、病室の扉が開き、
俺とクローゼさんは驚いてそちらを向いた。
「……アントン」
「アントンさん!?」
「………」
アントンは何も言わず、
突然入り口に向かって走り出した。
「おい!アントン!」
……くそ、アントンも気が付いたらしい。
「クローゼさん!
アリッサのことをよろしく頼む!」
「は、はい!」
俺は見えなくなったアントンの後を追った。

 つづく


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