■ゆきの翔
「髪、少し伸びたかなぁ?」
アネラス・エルフィードは、鏡に映ってい
る自分の前髪を手でいじりなから呟いた。
「う〜ん、思い切って切っちゃおっかなぁ。
あ、でもそれじゃあこのリボンが生かせなく
なるか」
唸りながらアネラスが決心した。
「うんっ! 髪型を変えよう」
一旦髪に付けていた、お気に入りの黄色い
リボンをほどき、アネラスは真剣な面持ちで
鏡に向かった。
「……とは言ったものの、どんな髪型がいい
かなぁ?」
髪の長さは肩を覆うくらい伸びていた。
「まずはシェラ先輩みたいに三つ編みにして
みよっかな?」
数分後。
「う〜ん、やっぱ長さに問題があるかなぁ」
十分伸びきっていない髪での三つ編みは、
目標となる先輩遊撃士のような、優雅さを兼
ね備える髪とはほど遠かった。
「さすがにシェラ先輩みたいにならないかぁ。
最低でも腰くらいまで髪の長さが必要だね」
そう言って結った髪をほどいた。
「もう少し可愛くて、動きやすい髪型がいい
かなぁ。あ、そうだ。エステルちゃんみたい
なツインテールもいいかも」
そう言うや、自分の手で髪を二本にまとめ、
やや後ろ気味で固定させた。
「お、なかなかいいかも。あ〜でも、そうな
ると……」
そこで重大なことに気がついた。
「リボンがもう一本必要になっちゃうかぁ」
そこでツインテールを諦め、アネラスは髪
をまとめていた指を離した。
「——髪型を変えるのも結構難しいなぁ。そ
れだけいつもの髪型がしっくりとしてたのか
なぁ」
でも……一度決めたことは曲げたくなかっ
た。アネラスはその後も試行錯誤重ね、新し
い髪型を見つけていった。
「おい、スチャラカ演奏家。なんで俺と一緒
にボースまで来たんだよ」
「なぜって、そりゃボースには美しい女性が
たくさんいるからに決まっているじゃないか」
アガットとオリビエが、ボース国際空港に
降り立った。アガットは顔をしかめながら、
オリビエを無視するようにギルドに向かった。
「あ、アガット先輩、おはようございます。
オリビエさんも一緒なんですね」
ギルドの中に入ると掲示板の前にアネラス
が立っていた。それを見たオリビエは、
「おぉう、アネラスくん、髪型を変えたのか
ね?」
「あ、はい。可愛くて動きやすい髪型にって
考えてたら、この髪型になりました」
その髪型は後頭部で一つにリボンで結った、
いわゆるポニーテイルだった。
「似合いますか?」
「モチロンだとも。なぁ、アガットくん」
「なんで俺に振るんだよ!」
そんな二人のやりとりを見て、アネラスは
微笑んだ。
「ありがとうございます。じゃあ私は手配魔
獣の退治に行ってきますね」
そう言ってギルドを出て行ったアネラスの
髪は、お気に入りのリボンと一緒に柔らかく、
元気いっぱいに揺れていた。
「うん、今日も頑張るよっ!」 |