■ミナルマ
『大切な人を幸せにしたい』
それは誰もが抱いている願いだろう。
大好きな人が笑顔を向けてくれている。
たったそれだけのことがとても大きな力に
なるのだから。
私の大切な人はいつも仕事で疲れた顔をさせていた。
それでも彼は忙しい合間を縫って時間を作り、
「近くに寄ったから」などと言いながら会いに
来てくれ、私はいつも不器用な彼の愛を感じていた。
子供の頃から彼はそうだった。
口では怒りながらも私のことを心配しくれていた。
昔から誰よりも近くにいてくれた大好きな人。
喜びも悲しみも苦しみも、全てを二人で分かち
合ってきた。
時にはケンカもしたけれど、側にいるのが
当たり前だと思えるほど長い時間を共に過ごしてきた。
彼がいるから今の私があるのだと、本気でそう
思えるほど彼にはとても感謝していた。
だから私は彼の愛に答えようと思った。
いつも安らぎを与えてくれる彼に、今度は私が
恩返しをしたいと思ったのだ。
そんな彼に何をしてあげたのか。
答えはとても簡単だ。
私は、私が最も得意としている歌を彼に披露して
あげることにしたのだ。
その日いつも通りに彼は私の部屋にやってきた。
彼が扉を開けるのと同時に、私は得意のリュートを
掻き鳴らし、美声に咽喉を震わせながら彼を出迎えた。
彼は一瞬呆気に取られた顔をさせていたけれど、
すぐに事態を把握し体を小刻みに震わせ始めた。
あぁ……そんなに感動してくれるなんて……
やはり私の歌声は聞く者を涙させる魔力を
秘めているのだろうか……
一瞬そんなことを考えてしまったが……私の幻想は
すぐに打ち砕かれることになってしまう。
感動に体を震わせていたと思っていた彼が
突然烈火のごとく怒り出してしまったからだ。
私は困惑した。
どうして彼は怒っているのだろう。
私はただ彼を喜ばせたかっただけ。彼の笑顔が
見たかっただけなのに……
しかし彼の怒りは到底治まらないらしく、
頭の血管が切れてしまうのではないかと
心配になるほど怒鳴り散らしている。
やはり褌一丁にスパンコールコートを羽織った
だけの姿で出迎えたのがいけなかったのだろうか……
それとも部屋の中を真っ赤な薔薇の花びらで
埋め尽くしたことが怒りに触れたのだろうか……
彼なら涙を流して喜んでくれると思ったのだ
けれど……
結局私はこの後、怒り狂った彼に説教をされた
挙句簀巻きにされて窓から吊るされてしまった。
しかもそのまま一晩中寒空の下に放置されて
しまったのだけれど……それでも私は夜風に
揺られながらどこか幸せな気持ちに包まれていた。
だって、こうして怒ってくれていることが彼の
『愛』なのだ。
そんなことは彼の幼なじみである自分が一番
よくわかっている。
それならば、私は彼の『愛』を甘んじて受け止める
ことを選ぼう。
何せ彼はボクの一番の親友——
これから先、共に怪物を倒すと誓った盟友なの
だから。
PS.
でも今度はチョットだけ優しくしてくれると嬉しいナ♪ |