■瑠璃
1204年 某日
リベール王国とエレボニア帝国の国境に位置するハーケ
ン門での物語。
「まさかまた帝国に行くことになるなんてねぇ…」
王国軍の人に出国審査証をチェックしてもらっているエス
テルが言った。
「そうだね」
エステルの後ろにいるヨシュアがそう答える。
クロスベルでの事件後、レンを連れて帰るためにリベール
に戻ったが、その後帝国の遊撃士側から帝国最南端の都市
であるパルム市への就任を直接依頼されたのである。
帝国に行くのは、ヨシュアの姉であるカリンの墓参りに行
って以来である。
ちなみにリベール最北のボース市とパルム市はかなり近い
ため、ハーケン門を通って徒歩で行くことにしたのだ。
彼らの父親、カシウスは帝国のギルド連続襲撃事件を解決
した人物である。
その事件の影響で帝国の遊撃士は弱体化してしまっていた
ので帝国はリベールから遊撃士を呼ぶことになってしまっ
たのである。
どうせなら優秀な人材を、ということでエステルとヨシュ
アが選ばれたようである。
「出国手続きが完了しました。次の方どうぞ」
「ありがと。ヨシュア、先に行ってるね」
「うん、あんまり遠くにいかないでよ」
「わかってるってー」
エステルは国境のゲートを通って帝国側に入った。
「うわー、ここが帝国か」
そこは、リベールとは雰囲気が違っていた。
何というか、軍人からしてリベールとは違うのである。
その時…
「キャァッ」
女の人の悲鳴が聞こえた。
エステルは迷わずその方向に走る。
「な…」
エステルと同い年くらいの剣を持った女の子が男に銃を
つきつけられている。
エステルはそこに進み出ていった。
「やめなさいよ!」
男は振り向き、エステルを見る。
「ほう…ここで会ったが運の尽きってやつだ…」
男は、エステルに近づき、つかみ、そしてこめかみに銃
を押し当てた。
「ハハハ!少しでも動いてみろ…こいつの命はない」
男は高らかに笑っている。
「そんな…民間人を人質になんて、卑怯よ!」
女の子はそう言ってはいるが、剣を持つ手が震えている。
「あんたの方が運の尽きなんじゃない?」
「何?…うっ!」
男がうめく。エステルが肘を思い切り男の腹に当てたの
だ。
男がひるんでいる間にエステルは棒を取り出し、そのま
ま腹に強烈な一撃を浴びせた。
「何だと…?」
「フフン、遊撃士をなめないでよね!」
男はそのまま倒れた。エステルは得意げである。
「あの…ありがとうございました…」
剣士の女の子は、エステルに一歩近づき、お礼を言った。
「ううん、気にしないで。それにしても、さっきの男、
何だったの?」
「あ、あれは武器の密売人です」
「密売人!?」
エステルは驚いた。リベールでは聞いたことのない単語
だった。
「リベールに武器を密売する商人だったみたいで、徒歩
で護衛がいるとなればばれにくいと思ったらしいです」
「そ、そんな人がいるんだ…」
リベールではまず聞かない。しかも、そんな人たちがリ
ベールに来ていたなんて…。
帝国は大変そうだ、とエステルは思った。 |