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■MOMO

【タイトル】 愛する、彼女の、マシン
【作者】 MOMO

ファイナルラップ。ZCFのマシンはアンヘリカの
プランより少しだけ前にいる。
『パブロ。少しだけ無理をするね。』
 彼女はステアリングのスイッチを押す。目の前に
一瞬蛇のエンブレムが浮かび、彼女はマシンとなった。

 2日前、パドックにて。
「一体これは…?」
アンヘリカはコクピットに座り、自分のマシンを
見つめる。美しい深紅のマシン。そのステアリング
に取り付けられた醜いオーブメントに彼女は違和感を
覚えた。それでもメカニックのパブロにうながされる
まま彼女はスイッチを押す。
「この装置は君の意識をマシンと一体化させる。
マシンの感触が分かるかい?」
しかし、その声をアンヘリカは聞いていなかった。
今までステアリングを通してしか通じ合えなかったマ
シンと、意識を共有している!今、快楽に近い感覚を
彼女は感じていた。もっと、もっと深く…。
その時パブロがスイッチを切った。抗議しようとし
た彼女を強烈な脱力感が襲う。
「この装置が作動している間、君のEPは消費され続
けていく。おそらく作動時間は30秒が限界だろう。
だから、ギリギリまで待って最後にZCFを仕留める
んだ。」

 スターティンググリット。
「ねえ、今まで聞かなかったけど、この装置はどうやっ
て入手したの?」
アンヘリカの問いにパブロは口ごもった。この設計
図を持ち込んだ少年。謎めいた道化師のカード…。
「まあ、いいわ。あなたは理解しているのよね。これ
から一体何が起きるのか。」
「ああ、僕たちはついに勝利するのさ。」
彼女はバイザーを閉じた。しかし、思い返したよう
にバイザーを上げ、問いかける
「ねえ、あなたはなぜ私と組んでいるの?マシンの為?
それとも…。」
「『君の』マシンの為だ。」
彼女はその答えを聞くと、すっと右手を差し上げて
オープニングラップに向かった。その表情をパブロは
見ることが出来なかった。 

 その日のレースは「天使のファイナルラップ」と呼
ばれた。そのタイム「1:12:87」はいまだに抜かれ
ていない。しかし、その時間はオーブメントが彼女自
身を破壊するのに十分なタイムでもあった。チェッカ
ーを受けた時、マシンにも、彼女にもなんのパワーも
残っていなかった。心臓を動かす力さえも。

 レース後のパドック、パブロは銃を手に深紅のマシ
ンをただ見つめている。
「ふーん、やっぱり壊せないんだね。」
いつの間にか、彼の後ろにあの少年が立っていた。
「お前は!お前のせいでアンヘリカは、」
「いいや、君はこうなる事を知っていた。少なくとも
危険があると分かっていただろう?」
パブロは反論しようとするが、出来ない。それは確
かに真実だったから。
「で、お前は僕を非難しに来たのか?」
「とんでもない。僕は君をスカウトしに来たんだよ。
他人を犠牲にする人間はいくらでもいるけど、最愛の
人すら犠牲に出来る人間は貴重だ。ようこそ結社へ!
君にはその資格がある。」

その夜、パブロは少年と姿を消した。彼女のマシン
を残したまま…。


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