■湯浅桐華
《異変》収束の祝賀会も終わり、夜も更けた頃。
夜闇に瞬く星々を見ながら、
グランセル城屋上で夜風を浴びる少女が1人。
「あ、クローゼ」
驚いたような声に、少女は振り向く。
自分の名前を呼んだのが誰かを認めると、
ふわりと微笑んだ。
「エステルさんも風に当たりにきたんですか?」
振り向いた先に居たのはエステル・ブライト。
クローゼことクローディア・フォン・アウスレーゼ
の大切な友人だ。
「うん、そんなトコ」
そう言うとエステルは彼女に並び立ち、
夜風を感じながら気持ち良さそうに星空を見上げる。
だが、互いに言葉は無い。クローゼもまた、
静かに星を見上げるだけだ。
そうしながら、どれだけの時間が過ぎただろうか。
「ねえ、クローゼ」
ふと呼ばれた名前に、エステルの方を振り向く。
だが、エステルは少しだけ俯いていた。
「……ううん、やっぱなんでもない」
それは、いつも太陽のように輝いている
彼女らしくない行為。
その理由を察したクローゼは、静かに彼女に問う。
「ヨシュアさんの事、ですか?」
「あう……鋭いわね、クローゼ」
苦笑いするエステル。
そして、意を決したように口を開いた。
「あたしはクローゼの事、大切な友達だと思ってる。
大好きよ。でも、クローゼは……あたしの事……」
その先は言葉にならない。だが何が言いたいのかは
クローゼにも痛い程よくわかった。
エステルもクローゼもヨシュアの事を好いていた。
そして今、ヨシュアはエステルを好いている。
その事で、複雑な気持ちに囚われているのだろう。
心優しい彼女らしいと、クローゼは思う。
「いいんです、エステルさん。
私は、お二人の事が大好きなんですから」
祝賀会でヨシュアに告げた事をエステルにも言う。
でも、と言い募ろうとするエステルに微笑み、
クローゼは続けた。
「それに私、さっき振られちゃいましたし」
クローゼは静かに微笑む。
きっと初耳だったのだろう、
エステルは息をのんで固まってしまっていた。
そんな彼女を見ながら、クローゼは続ける。
「それでも私は、エステルさんと
ずっと大切な友達で居られると思ってるんですよ?
だって……」
エステルの目を見つめながら、
彼女らしい凛とした表情でクローゼは言う。
「同じ人を、好きになったんですから」
一瞬、驚いたように目を見開くエステル。
だんだんと、本来の快活な笑みが戻って行く。
「そっか……うん、そうよね……!
上手く言えないけど……ありがと、クローゼ」
いつものように太陽の如く笑いながら、
クローゼの手を握るエステル。
クローゼもいつものように優しい笑みを浮かべ、
頷きながらその手を握り返す。
そこには確かに、2人の暖かな絆があった。
同じ人を好きになった2人の少女。
でも、否、だからこそ、少女達の絆は固い。
だからこそ遊撃士と王太女が描く軌跡は、
きっと長く続いて行くだろう。
そこに、彼女達が在る限り。 |