■ユニコ
(ただいま、兄貴)
ロイドは指先でドッグタグに触れながら、
数か月前に口にしたのと同じ言葉を胸の中で呟いた。
(なんだか、やっと本当に言えたような気がするよ)
捜査官の資格を得てこの街に戻り、兄の背中を
追う為の一歩を踏み出したつもりでいた。しかし、
クロスベルの現実という壁にぶつかる度、迷い、悩み、
時には立ち止まりそうになってしまうこともあった。
(本当にいろいろなことがあった。けど、そのおかげで
気づけたこともたくさんあるんだ)
「二人とも、今日はありがとう」
ロイドが振り向いた先には、オスカーとウェンディが
並んで立っている。
「晴れてよかったよな」
「暖かいし、風も穏やかみたい」
今日の風はどことなく優しく、供えられた花も気持ち
よさそうに揺れている。
「帰ってきたと思ったら、ずっと忙しくしてたもんな」
「はは、ごめん」
オスカーの言葉に苦笑しつつロイドは素直に謝った。
いつも仕事を最優先にしていたのは事実だからだ。
「謝ることじゃねえけど、あんまり忙しすぎるのも
どうかと思うぜ?」
「うっ。それは、そうだよな……」
「オスカーは心配してるだけなのよね」
それまで二人のやりとりを聞いていたウェンディが、
クスクスと笑った。
「え、心配?」
思わず聞き返すと、オスカーはどこか居心地が悪そう
にしている。
「そっか。ありがとう、オスカー」
「……そういうとこは昔っから変わんねえな」
いつもより少しぶっきらぼうなその言い方は、
照れくささを隠す時のオスカーの癖だ。
「うん。でもやっぱり、私たちの中で一番変わったのは
ロイドじゃない?」
ウェンディの言葉に、オスカーが頷く。
「ああ。ちょっと悔しいぐらい、いい顔になったよな。
俺が言うのもおかしいけど、警察官になってよかったん
だなって思うぜ。いい仲間とも出会えたみたいだしな」
仲間、と言われてロイドは、心から信頼する同僚たち
の顔を思い浮かべた。
自分は一人ではない。高い壁も、助け合いながら、
自分たちのやり方で乗り越えていけばいいのだと、
気づかせてくれた仲間たちだ。
「うん。支援課のみんなには、本当に感謝してるよ」
早く一人前にならなければと焦っていた自分は、
もういない。この街ですべきことを見つけられたし、
守りたい存在もできた。兄の背中はまだ遠いけれど、
今歩いている道が、確かにそこに繋がっているのだと
信じることができる。
「もちろん二人にも」
「だから、そういうのはいいって」
「素直に受け取ればいいのに」
二人に向けた顔が、自然とほころぶ。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
歩き出して、ロイドはもう一度と、兄を振り返った。
(今は遠くても、必ず追いついてみせるから。そして
いつかは、追い越せるように)
大切な友人が、仲間が、守りたい人がいるこの街で。 |