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■ヒノっち

【タイトル】 ロイドの決意
【作者】 ヒノっち

 あの事件の表彰から数日後、俺は聖堂の兄貴の墓の前
にいた。
 「兄貴…やっとあの事態も落ち着いたよ」
そう言ってロイドは花を供えてそっと黙祷した。 
 「ロイド君か」
 その時後ろから声をかけられた。その人は墓守のクイ
ントだった。
 「どうも。お久しぶりです」
 「新聞に載っとったの。大活躍だったようじゃないか」
 「いえ、皆がいたから出来たことですし、何でも一人
でできた兄貴には程遠いです」
 「ふふふそれもまたロイド君の力じゃて」
 そんな背中を俺はずっと見て育ってきた。その人
のすごさも今になってみればわかる。
 「でも俺は…」
 「ん?」
 「今回の犯人の妄想を晴らせられませんでした…犯人
は自分の罪を受け止めずに死んでしまったんです」
 「…」
 「でも兄貴だったらきっと」
 「いやそれはないじゃろうな」
 クイントはロイドの言葉をさえぎる様に言った。
 「え?」
 「わしはその犯人の事を知らん。どんな死にざまだった
のかもな…じゃが」
 クイントとロイドの目が合う。
 「君がその犯人を救えなかったからと言ってガイがそ
の犯人を救えていたかどうかはわからんさ」
 「え?」
 「例えばじゃ。君がもし目の前で二人の子供が手の届く
別々の場所で同時に引かれそうになったらどうする
ね?」
 「どうするかって?」
(どっちも助けるにしても場所が違うんじゃ助けられな
い。だったら・・・)
 「ドン」
 「わ!?」
いきなり耳元で叫ばれて驚くロイド。
「今ので二人とも引かれてしまったぞ」
 「…えーと?」
 「わからんか?お前さんは完璧を求めるあまりに助け
られたであろう一人の子供を救えなかったじゃろ」
 「あっ…はい」
「今回でもそうじゃ。もし君がその死んでしまった犯人を
追わなかったらそれ以上の死者、もしくは被害者が出た
かもしれん」
「あ…」
 「最善の道を探すことは良い事じゃ。しかし人は何でも
可能にできる生き物ではない。だからワシら人間は常に
全力で、ガイが壁と言っていた不可能に挑まなければな
らん。必ず報われるわけではない。それでも挑み続けな
ければその不可能を可能にすることはできんさ」
その言葉を聞いてロイドは祭壇での言葉話思い出してい
た。

『俺たちは全能じゃねえ!全てがうまくいくわけがねぇ
んだ!それでも精一杯やってここまでこれたんだろう
が!?』
『ガイさんやアリオスさん、課長たちは屍を越えて私
を助けてくれました。避けられない犠牲も……時にはあ
るのだと思います』

 「……」
「ふむ…少々説教になってしまったの」
「いえ、その通りだと思います。おかげで何かを掴めた
ような気がします」
「ふふふ、そう言ってくれるならガイの前で説教したか
いがあったの」
「ははは……ありがとうございました。でも俺は……い
つかは両方を守れる人間になって見せます」
ほほうとクイントは唸った。
「そうか。ガイ共々楽しみにしとるよ」
「はい!」
そう言ってロイドはその場を後にした。

■ヒノっち

【タイトル】 過去
【作者】 ヒノっち

 夢を見ていたと思った。夢だと思っていた世界の私は
誰かに抱きかかえられていた。その抱えている人が何か
叫んでいる。何を言っているのか頭が回らなくなってい
るためかよく聞き取れなくて、そして気がつけば私は、
見知らぬ人たちがたくさんいる場所に、外の世界に連れ
だされたのだった。

 夢から覚めた時、私の口周りに何かが付けられていた。
何か規則正しいピッピッという音も聞こえる。私は重い
まぶたをそっと開けた。すると視界にはシミ一つなく目
に痛いほど真っ白な世界が広がっていた。
(夢…なのかな?)
その時、近くにいた女の人が急に騒がしく駈け出して行
った。
そして入れ替わりにちょっと髪が茶色みがかった男の人
が入ってきた。
「よう。気分はどうだ?」
「…え?」
「えっ?じゃないだろう。…そうかお前の気分はえっ?
なのか?」
なんなんだこの人は…やりづらい。
すると何やらいかつい人が入ってきた。
「一課だが早速事情聴取したい。席をはずしてくれ」
(じじょうちょうしゅ?)
知らない言葉だった。5歳で誘拐された私にとっては
あそこにいた人達の話す言葉の意味なんて知りたくな
かった。ろくな内容じゃない事を知っていたから。
その時、その茶色がかった髪の人が一瞬私を見た。そ
して
「まだこの子は普通に話せる状態じゃないですよ」
とその人達に言いきった。

 その後もその人は私の代わりにそのじじょうちょうし
ゅとやらを断り続けその人達はしぶしぶ出て行った。
「あの…」
「ん?」
「…」
「何だよ?」
「私の代わりに…その」
「ああ、さっきのか。気にすんなよ」
何でだろう。この人と会ってそれほど経ってないのに
この人は怖くない。
「ああそうだ。まだ名乗ってなかったな。おれはガイ。
ガイ・バニンクスだ」
「…ティオ」
「ティオか。早く元気になれよ。また来るからな」
そう言ってガイさんは出て行った。
それからガイさんはちょくちょく私の病室に来てはい
ろいろな話をしてくれた。自分に弟がいること、相方の
人が警察をやめること、そしてバッジの傷の事も。
そして数カ月の療養生活がもうすぐ終わる頃、ガイさ
んはあるものを私にくれた。それは、何かのストラップ
だった。
「ガイさん、なんですかこれ?」
「おお。こいつはこの街のご当地キャラクターでな。み
っしぃ…て言ったと思うぞ」
「名前知らないんですか」
「名前なんていいんだよ。ありがたくもらっとけ」
「はあ…」
相変わらずいい加減なのかそうじゃないのか解らない
人だ。
「ティオ」
「はい?」
「お前はきっと幸せになれる。もしそうならなかったら
いつでも俺を呼んでくれ。お前を不幸にする原因を一緒
にぶっとばしてやるからよ!!」
「…」
「要するに。困ったことがあったら何時でも俺が
行ってやるって意味だ」
「…ふふ」
「お!?今笑った?」
「え!?」
「確かに笑ったよな。はは最後にいいもん見れたぜ」
「〜〜〜」
そして数日後私はガイさんにレミフェミア公国の実家
まで送ってもらった。


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