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■ティム3

【タイトル】 紅き遊撃士の可能性
【作者】 ティム3

 「おい、ジャン!依頼はこれだけか?」

 ギルドの掲示板を見て、アガットは苛立ちの混じった
声をジャンに放り投げた。

「これだけって、山のようにあるだろう。君ってば手配
魔獣の討伐か護衛の仕事しかしていないじゃないか。遊
撃士は魔獣退治専門じゃないんだからね。」
「…ぐっ。わかって—。」

 わかってはいる。けれど、気持ちの整理がつかない中
では魔獣退治ばかりを率先してしまう。
アガットが準遊撃士になって、一カ月弱。
ミーシャへの償い、自分の負う責任への答えが出ず、
荒れた日々を過ごす中で、カシウス・ブライトに出会っ
た。そして彼の導きにより、遊撃士の道を歩み始めてみ
た。だがカシウスが遊撃士を示した真の意味も、その先
に何があるかもわからず、自責の日々が続くばかりだ。
日々押し寄せてくる、やり切れない虚しさと怒りを重剣
に乗せて魔獣に叩き込むことで、アガットは気持ちを鎮
めていた。

 不意にギルドの扉が開いた。

「あ…ッの!どうしてもコレを届けたいの!だけどッ…
一人じゃどうしようもなくって…お願いします!」

 小さな少女だった。走ってきたのだろう、荒れた呼吸
を整えるより先に、少女は矢継ぎ早に言葉をまくしたて
た。落ち着かせて話を聞くと、父親が忘れた仕事道具を
クローネ山道まで届けてほしいとのことだった。

「なるほど。じゃあアガット、この依頼頼んだよ。」
「…なんで勝手に決めてやがる?」
「仕事選んでばかりじゃいけないよ。それに、どうやら
緊急要請だからね。」
「…ちっ。それで…その忘れ物ってのは何なんだ?」
「えっとね、仕事用の軍手なの。」
「軍手だぁ?替えなんていくらでもあるだろうが。そん
なもののためにわざわざ遊撃士を頼るなんて、あまいん
じゃねえのか。」
「おいおい、アガット…」
「…パパが無事でお仕事できますようにって、ママが作
った軍手なんだよ。パパはいつもそれをしてお仕事して
いるの。いつも元気でお仕事できるのも、ママの軍手の
おかげなの。」
「あ…」

 そんなもののために。そうは思ったが、少女とってみ
れば、家族を想う故の大切な一品なのだ。
アガットは無意識に胸に光る石を指で触れた。
あいつも同じ気持ちだったのかもしれない。大切な家
族のために、笑顔のために、目の前の少女みたいにミー
シャもまた、真っすぐで一生懸命だったのだろう。
そして今、大切な人のために何かできる可能性を求め
て少女は遊撃士を訪れている。そして、それに何か力に
なれる自分がいるかもしれない。
アガットは少女の目線に腰を落として、真っすぐに少
女を見た。

「わかった。その依頼、引き受けるぜ。」

「—ありがとう!お兄ちゃん!」

 少女の笑顔と、あの日以来耳にしていなかった響きに
アガットは久しく感じてなかったものが心の内からほの
かに沸きあがるのがわかった。

「こういうことなのかよ、オッサン…」

 アガットは小さく微笑った。
いつぐらいのことだろう。

■ティム3

【タイトル】 ガールズトーク!
【作者】 ティム3

 月が笑う。星が歌う。今宵は武骨な男も、乙女心をく
み取らない粗野な男もいない。乙女だけが分かち合う楽
しみと少しの秘密が入り混じる、気心知れた女の子が集
う会。それは—。

「女子会ってやっぱいいわねー!ね?シェラ姉!」
「エステル、あんたさっきから食べてばかりじゃない
の。」

「あ!ていうか、エステルちゃんの鞄に付いてるのは、
ボース市限定のご当地ベアストラップ?!」
「こないだスニーカー買ったら、おまけで貰ったの。ア
ネラスさん、よかったらいる?」
「ほんと?!これ欲しかったんだあ!エステルちゃん、
ありがとうね!」

「あんたも年頃だから、ぬいぐるみだけじゃなくて、恋
人の一人や二人作ったほうがいいんじゃないの?」
「ねえ、アネラスさんはやっぱクルツさんみたいな感じ
がタイプとか?」
「うーん、クルツ先輩は頼れるし、オトナって感じだけ
ど…私は恋人にするならティータちゃんだね!」
「アネラスさん、話が若干それてるんですけど…」

「ティータちゃんと言えば、アガット先輩にはもったい
ないよね。美女と野獣っていうか、あはは!」
「でも意外だったのが、前にアガットと二人で行動した
時、買い物とか身支度とか気にかけてくれたのよ!」
「初対面の印象ではありえないわよね。まさかのイケメ
ンポイントあがるじゃない。」

「イケメンっていったら、レーヴェって人、普通にかっ
こよかったよね!あれは相当モテるタイプだよ。」
「あーそれ私もそう思ったわ。」

「そんなこと言うけど、シェラ姉にはオリビエがいるじ
ゃない?」
「あれはただの飲み仲間よ。まあ、黙っていたら、それ
こそイケメンだと思うけどね…」
「オリビエは、あの空気の読まなささというか、3枚目
な感じがアレよね。残念なイケメンっていうか。」
「言い得て妙だね!エステルちゃんおもしろいなー!」

「ケビンさんも残念なイケメンかもしれないわね。ギャ
グ、たまにスベってるとことか。」
「でも普段はちょい軽い感じだけど、裏がある感じがな
んというか…流行りのギャップ萌え!?」
「アネラス、あんたマニアックねー。」

「エステルちゃんにとってのイケメンは、ヨシュアくん
だけってことで、聞くまでもないね!」
「なっ…アネラスさん、いきなり何言うのよ…」
「かわいー!エステルちゃん、赤くなってる!」
「でもヨシュアと付き合うのは、意外と大変そうよね。」
「あはは!案外ネガティブな一面もありますよね。」
「でもヨシュアなりに前に進んでいるわ。それに…私が
傍にいるからっていうか…ずっと一緒ってふたりで決め
たから大丈夫っていうか…」

「もー、結局エステルのノロケになっちゃうわけね!」
「エステルちゃんはヨシュアくんのこと、ほんと大好き
なんだねー!」
「よし!今夜はエステルのノロケ話をとことん聞いてあ
げようじゃないの!」
「賛成—!!」
「え!?なんでそうなるのよ?!私、なんか言った
ー!?」

 月が笑う。星が歌う。女子たちの夜は更けていく。


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