■柏木いろは
エレボニア帝国のとある街の遊撃士協会。受付のレイ
モンドは、導力通信からある情報を入手していた。
「…そうか。では"彼"の到着は遅くなるということか。
妙な事件が起こったもんだぜ。…ああ。また詳しい話を
きかせてくれ。もうじきアイツが来る頃だからな。…あ
あ、ついに復帰ってワケだ。……いや、アイツには特別
に頼みたい仕事があってな。…それが、少しワケありで
な…」
その時、協会の扉が開き、一人の少女が入ってきた。
「こんにちは、レイモンドさん。」
「…噂をすればだな。じゃあな。また連絡する。」
レイモンドは通信を切り、訪ねてきた少女に向きなおっ
た。
「久しぶりだな、リウォン。そろそろ来る頃だと思って
たぜ。」
訪ねてきたのはリウォン・ユン。鮮やかな翡翠の髪と目
をした、17歳になる遊撃士の少女だ。
ユン家といえば、カルバード共和国では名の知れた遊
撃士一家だ。独特な戦術と方術を駆使し、優秀な遊撃士
を多く輩出している。特にリウォンは幼い頃から遊撃士
である両親の元で様々な戦術や交渉術を学び、並外れた
優秀さから、特例として13歳で遊撃士になり、16歳
になったらA級遊撃士への認定が約束されていたのだが
…
「随分ひでえケガしたらしいな。復帰にこんな長い時間
がかかるとは。」
「生死の境をさまよっていたらしいです。回復とリハビ
リに時間がかかりました。」
リウォンの話に、レイモンドは驚きの表情を浮かべた。
「そんなにひどかったのか!?大丈夫なのか復帰して」
「日常生活に支障はありません。正直、ここまで回復す
るとは思わなかったと、先生に驚かれました。」
「はは…なんつーか、さすがだな」
3年前の任務中に、リウォンは命に関わる大怪我を負っ
た。通信での極秘任務で、リウォンの遊撃士手帳も破損
してしまったため、依頼主と依頼内容は謎のまま。何よ
り怪我の影響からか、リウォンは依頼を受けてから病院
で目が覚めるまでの記憶を失ってしまっていた。リウォ
ンの怪我の理由も、分かっていないのである。
「問題は記憶の方ですね。依頼を受けたここに戻ってこ
れば、何か思い出せるかと思ったんですが。」
「オレもできるかぎり調べてみたが、分かったことは何
一つなかったな…。
…で、仕事の方はどうする?」
「それなんですが、小さな仕事から始めて、感を養おう
かと。」
「そうか…。実はなリウォン、お前に頼みたい仕事があ
るんだ」
「はい?」
「新人遊撃士の育成なんだが、そいつがちょっとワケあ
りでな」
「ワケありって…?」
「いずれ本人が気が向いたら話すだろ。おい、降りてき
ていいぞ!」
レイモンドが2階に声をかけると、青年が階段を降りて
きた。髪と目は真っ青で、特に髪は海のような群青だっ
た。年は24くらいだろうか。
「初めまして。ジース・ガーフィーです」
これが最初の出会いで、"ワケあり"な二人はこの後、
途方もなく大きな事件に巻き込まれていくことになる。 |