■如月日向
「みなさん。夕食の準備ができました」
「ティオすけの飯当番は今日が初めてか」
「ああ、楽しみだな」
「ええ、本当に……え?」
エリィの言葉が途切れ、一同がテーブルに注目した。
いつも使っているミーティングテーブルには、何やら
得体の知れない黒い物体が並んでいたのだ。
「ティオ、これはなんだい……?」
「夕食ですが。何か問題でも?」
「いやあ美味しそうだなあ。ランディ?」
ひきつった笑みを浮かべ、思わずランディの方を振り
返るロイド。
(俺に振るのかよ!?)
(しょうがないだろ。他に何を言うか思い付かなかった
んだから!)
(ちょっと! まずは落ち着いて状況を整理しましょう
!)
(そうだな。まずは落ち着こう)
1.ティオが夕食当番
2.食卓に並べられたダークマター
3.ティオはこれを夕食だと主張
4.これからこのダークマターを食べる
(並び替えるまでもないな……)
(全滅……!)
(やべえぞ! このままじゃ俺達全滅だ!)
(くっ……はっきり言うしかないのか)
(それじゃあ可哀想よ。下手なりに一生懸命に作ったん
だろうし)
(さすがお嬢。ナチュラルに毒舌だぜ)
「皆さん」
「「「は、はい!?」」」
「食べないんですか?」
三人は互いに顔を見合わせた。ここで返事をする。そ
れはこのダークマターと向き合わねばならないというこ
とだからだ。
(ロイド。何とか言えよ)
(切込隊長はランディの役目だろ)
(こういうときに前に立つのがリーダーなんじゃねえの
?)
(ランディが逃げるとは思わなかったな)
(言うじゃねえか弟くん)
(二人共! 言い争ってる場合じゃないでしょ!)
(すまない、あまりの事に気が動転していたみたいだ)
(わりぃ。俺も熱くなっちまったな)
(とりあえずここは私が行くわ)
ティオに向き直ったエリィは、毅然とした態度で言い
放った。
「あ、あまりに美味しそうで手をつけるのがもったいな
いかなって」
(エリィ!?)
(お嬢! 逃げるのかよ!)
(仕方ないでしょ! じゃああなた達はあれを食べられ
るの!?)
(馬鹿言え。警備隊のサバイバル訓練で食った魔獣のほ
うがまだマシだぜ)
(でしょう!)
(……俺が行くよ)
「ティオ」
(おいロイド!)
(何をするつもり!?)
(ここは俺に任せてくれ)
「何でしょう」
「ティオは一生懸命作ってくれたんだよな」
「私の料理を食べてもらうのは初めてですし。その……
ちょっと失敗したかな、と自分でも思いますけど」
(ちょっとじゃないわよね)
(お嬢、今は黙っておこうか)
「失敗でもいいんだ。それを乗り越えて一緒に前に進ん
でいく。それが仲間だろう」
「ロイドさん……」
「お前……」
「ロイド……」
「さあ、少し遅れたけど夕食にしようか」
この日、謎の毒物によりウルスラ病院に特務支援課が
緊急搬送された。その真相を知るものは少ない。
病室にて
「ティオにはちゃんと料理を教えることにしよう」
「ええ」
「そうだな」
「ロイドさん……」
「面倒くさいです」 |