■がしあん
ジャズバー《ガランテ》
洒落た店内のカウンター席でラスティネイル片手に
ダドリー捜査官が神妙な顔つきで語る。
「例の教団の拠点ですが、どうやら星杯騎士団による
調査が行われるようです。重要人物としてあの少女
にも調査がおよぶかもしれません。」
「ふむ、十分予測できたことではあったがな。まぁ、
それはこっちでなんとかするさ。」
セルゲイ・ロウ、ヘビースモーカーな特務支援課課長が
落ち着いた返答をし、スレッジハンマーを一口飲む。
支援課で保護している少女。
彼女が教団の中枢にいた事実を奴らが見逃すはずがない
必ず彼女の素性を追求するだろう。
「今回の件で、改めて警察の柵の深さを思い知りました
。近々事件関係者の一斉逮捕に踏み切りますが、市民へ
の影響は計り知れないでしょう。」
ダドリーの顔が悔しさに歪む。
「お前も心労の絶えない男だな。だがお前はこの街を守
るためよくやっているじゃないか。それに市民の多くは
元々政府や警察に不満を抱いていただろ。」
そのとおりだ。秩序を守るためといい、本当の意味で
何も解決できず、市民に仮初めの平和を押しつけ、
そして今そのツケを払う事になっているのだ。
市民に不満がないわけない。
「次期市長選挙の話、聞いたか?」
「ええ」
セルゲイの問いに答える。
「この街は変わろうとしているんだ。外国の連中が
どう思うか知らんが、この変化を邪魔させるわけには
いかんぞ。」
「今の警察に務まると思いますか?」
「語源の通りならな。まぁ、好き放題やってる連中に
釘を刺すなり鉄槌を下すなり、これまで以上に
やることは多いがな。」
「ですが、錆びていては使い物になりませんよ。」
そう言ってラスティネイルを一口含む。
このクロスベルに蔓延る錆の根は深く
私自身の覚悟さえ蝕み、鈍らせる。
事実捜査一課の中でも事件の究明による動揺が大きい。
ダドリーの心情を察したセルゲイがつぶやいた。
「根づいた錆は深いかも知れんが、粛々と取り除けば
いい。せいぜい丁寧にやるこった。」
そういってスレッジハンマー入りのグラスで
ダドリーのカクテルグラスを小突いた。
大槌が小気味良い音を鳴らす。
「まぁ、これでも一応、後ろから叩いてやるぐらいは
できるからな。。」
「セルゲイさん・・・」
ああ、そうだ。私は見てきたではないか。
この人に見守られ、困難と知ってもなお壁に挑み、
乗り越えようとあがく少年達を。
・・・まったく、これだからこの人には頭が上がらん
というのだ。
ダドリーはグラスに残ったラスティネイルを一気に飲み
干した。
ルバーチェの活動が停止し、黒月の動きが活発化してい
る今、成すべきことはたくさんある。
この街に未だ蔓延る錆を除くまで、立ち止まってなどい
られない。まだ守るべき正義がこの街にあるのなら、
私もまだあがき続けるべきなのかもしれない。
この都市を支える≪砦≫と、真に認めてもらうために。
錆色が抜けたカクテルグラス
それはダドリーの強固な決意の現れのようであった。 |