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■inosin

【タイトル】 約束の地
【作者】 inosin

 「くそっ!いったいどこにいるんだ!」

 古戦場の中を駆ける者がいた。短い黒髪に、東方の物
と思われる武道着を身に付けており、少年のような風貌
をしている。肩のあたりには、準遊撃士を示す紋章が見
てとれた。

 「明日にはカルバートに帰国する予定だったのに。」

 数時間前、協会の支部に戻ってくると、緊急の依頼が
待っていた。

 話を聞いたところ、エオリアという娘が行方不明に
なったらしい。年は16で医者を目指しており、薬の材
料になる花が古戦場に生えているという情報を聞き、そ
こに向かった可能性が高いという。

 古戦場内を探し回っていたところ、今にも崩れそうな
高い石の壁のそばで、身をかがめながら花を摘んでいる
少女の姿が目に映った。

 「あいつか。おい・・・!」

 無事見つけられたことに安堵し、声を掛けようとした
ところ、突然彼女のそばの壁が、轟音とともに崩れだし
た。

 「危ない!」

とっさに少年は駆け出し、少女を抱え込んだ。

 「くっ!・・・おい、大丈夫か?えーと、エオリア
だっけ?」

 「は、はい。ありがとうございます。」

 体を確認し、怪我がないことを確認すると、少年の心
も落ち着いたが、同時に彼女の軽率な行動に対する怒り
も込み上げてきた。

 「馬鹿野郎!何の力も持ってないくせに、なんだって
一人でこんなところに来たんだ!」

 急に怒られたことでエオリアは体を萎縮させたが、や
がて顔を上げると理由を話し始めた。

 「ここには貴重な薬を作るための材料になる花が咲い
ているのです。少しでも多くの人を助けるために、どう
しても摘んでおきたかったので・・・。」

 「なら明日にでも遊撃士に依頼して、護衛してもら
え!」

 「明日にはレミフェリアへ帰国しなければならなかっ
たので。・・・申し訳ありませんでした。」

 エオリアは、他人を助けたいがために、このような行
動をとってしまった。少年にもそれが理解できたため、
それ以上怒ることはしなかった。

 「分かればいいよ。あと、あんた私と同い年だからタ
メ口にしてくれよ。」

 「う、うん分かった。・・・え、私?」

 「ん?ああ、まだ名乗ってなかったな。私はリンって
いうんだ。」

 「え、女の子?」

 「・・・おい。男だと思ってたのか!」

 「ご、ごめん。なんか凛々しかったから。」

 二人は顔を見合わせると、今までの緊張が途切れたの
か、笑いながら話始め、そのうち二人はすっかり意気投
合していた。

「ねえ、リンは遊撃士なんでしょ?」

「そうだけど?」

 「ならあたしも遊撃士になる!」

「おい、なんでそうなるんだよ!」

 「だって、リンってば無茶してすぐ怪我しそうだか
ら。私が側にいて傷を癒してあげる。だから約束して、
私が遊撃士になったら、またクロスベルで会いましょ
う。」

 「おい、勝手に決めるなよ。・・・まあいいか。おま
えとなら楽しそうだし。」

 二人はそう言うと、互いに手を取り合って再びこの地
で再会することを約束した。


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