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■佐和

【タイトル】 スミレ色の天使
【作者】 C.H

 むかしむかし。あるところに、夕日色の髪に、海色の
目の男の子がいました。
 その子はとても好奇心旺盛な子で、図書館で知らない
国の地図をながめたり、近所の猫を追いかけたり、元気
いっぱいに暮らしていました。

 ある日の事。不思議なネコを追いかけるうち、男の子
は見知らぬ場所に迷い込んでしまいました。

 グルルルル…ッ

 そのうえ、狼のような魔獣たちが男の子の周りを取り
囲み、じりじりと距離をつめてきたのです…!

 その時。

 「さがりなさいッッ!!」

 凛とした声が辺りに響き渡ります。
その声の主、男の子を助けてくれたのは、ふわりとし
た服、スミレ色の髪の少女でした。

 少女はあっという間に魔獣たちを追い払うと、男の子
と一緒に遊んでくれました。けれど男の子のお父さんと
お母さんが迎えに来た時、そこにはもう誰の姿もなかっ
たのです。

 それからしばらくして。ある夜、寝ていた男の子はふ
と目を覚ましました。すると窓のところに小さな人影が
あるのに気付いたのです。

 「もしかして…スミレ色の、おねえちゃん…?」

 その声に、人影が男の子の方を振り返りました。

 「こんばんは、おちびさん。よくわたしがいるのに気
付いたわね?」

 「うん、目が覚めたらおねえちゃんがいたの〜。ねえ
ねえ、おねえちゃんは天使?」

 「え?」

 男の子の質問に、少女はびっくりしたように聞き返し
ました。

 「おねえちゃんのこと、お父さんとお母さんに話した
ら、天使じゃないかって」

 「……そうね。そうかもしれないし、そうではないか
もしれないわ。…あなたの顔も見られたし、わたしはそ
ろそろ行くわね」

 「どこに行くの〜?」

 「…遠いところよ」

 「…もう、会えないの…?」

 泣きそうな顔で男の子が聞きます。

 「…」

 少女は何にも言いませんでした。けれど、その瞳は何
か迷うようにそっと伏せられたままです。

 「……おねえちゃん」

 「……………ひとつだけ、約束できる?」

 「え?」

 「わたしがあなたに会いに来た事、内緒にできる?」

 それなら、時々。本当に時々だけれど会いに来てあげ
る。そう、少女は男の子に告げました。

 「おねえちゃんは天使だから、会ったことは内緒なの
?」

 「…そうよ」

 「うん、わかった〜」

 男の子がそう答えると、少女はにこっと笑いました。

 「それじゃわたしは行くわね」

 「うん、またね。おねえちゃん」

 「ごきげんよう」

 そう、最後に挨拶の言葉を残して。ふわりと少女は姿
を消しました。

 それから。
何か悩んでいたり、心細いとき。そんな時、男の子は
決まってスミレ色の面影を見るようになりました。
大抵はお父さんの髪だったりするのですが、それでも
心が軽くなるのです。
きっとスミレ色のおねえちゃんが魔法をかけてくれた
んだ、と男の子は思います。

 そして本当に時折。
決まって夜の窓辺ではありますが、男の子の部屋には
スミレ色の天使が舞い降りるのです。

 今でもあの時の約束のとおり、スミレ色の天使は男の
子のことをそっと見守っているのでした。

C.ヘイワース


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