■和 龍之輔
【タイトル】 |
灯籠花 後編 -タンロンファ- |
【作者】 |
和 龍之輔 |
「セピスを使った灯りの研究?」
「そう。導力灯とはまた違った方向で、七耀石を使った
何かが出来ないかってね。今日アンタが運んで来てくれ
たのもその研究の成果なんだ。これ、何か判るかい?」
周辺の魔獣を一掃し研究所へと入ってきたジンを出迎
えたのは、研究所の所長だった。
見せられたのは一輪の花だ。
スズランに似た蕾のような形の白い大きな花弁、長い
茎、山中でまれに見かけるそれは、
「ホタル花……?」
「そう。昼は眠りにつき、夜に咲く夜行花だ。そして珍
食材ホタル茸同様、発光する植物でもある。とはいえこ
れはその辺に生えてるのとは違って改良版だけどね。見
てて」
他の研究員がセピスが詰まった小箱を持ってくると、
所長はその中から火のセピスを取り上げた。
セピスを蕾の中へと落とし込む。すると、真白い花弁
に変化が起こった。
花びらの色が、根元からぼんやりと色が変わっていく
ではないか。最初は薄い朱色。それがだんだんと濃くな
り、ものの数秒で先ほど飲み込んだ火のセピスと同じ鮮
やかな赤に変わった。光りを発しており、一面が赤い光
りに染まる。
「凄いだろ? 花がセピスを取り込んで反応を起こし、
こうやって発光するんだ」
「これは……見事だな。しかし本来のホタル花は、こん
な色には光らなかったように記憶してたんだが……」
「それがオレ達の研究の成果だよ! ホントのホタル花
は薄緑にうっすらと光るだけなんだけれど、改良に改良
を重ねて七耀石の属性に合わせて色が変えられるように
なったんだ! 凄いだろ!」
「確かに凄いが、何に使うんだ、これ?」
よくぞ訊いてくれました、と所長が目を輝かせた。
「提灯」
「は……?」
「ちょ・う・ち・ん! 提灯ってさ、綺麗だし風情もあ
ると思うけど、火傷者も結構多くってね。それをなんと
か出来ないかなって」
まさしく提灯のように花を持ち、興奮気味に所長は捲
くし立てる。
「そこにこれだ! 提灯の仄かな風情を残しつつも、超
安全! これでもう怪我する人はいない。それがようや
く完成したんだ!」
呆気に取られるジンはそっちのけで叫びだした所長を
筆頭に、研究員達は皆一様にはしゃぎだす。
彼らは七耀石が豊富だからという理由で危険な山奥に
研究室を囲み、何年も掛けて研究を続けてきたという。
そんな彼らが作り上げたのは火を使わない提灯。それ
も今では、祭りの時でしか使わない物。
その完成に今、子供のようにはしゃいでいる。
「ハハッ……! こいつぁいいや!」
同じように破顔し、ジンは声を上げて彼らと一緒に笑
った。
帰り際、報酬の一つとして、ホタル花を一輪貰った。
試しに手持ちのセピスを一つ入れてみた。
花弁の根元から徐々に色が変わっていき、淡い黄色へ
と変化が起き、光りが生まれる。
足元まで届く光りに満足そうに頷いた後、ジンはゆっ
くりと帰り道を歩き出した。
提灯のように揺れ動く花が、夕闇に陰り始めた夜道を
静かに照らし出していた。 |