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■Crane

【タイトル】 ひとこと日記
【作者】 Crane

 シスター・マープルの机上には、宿題のノートが積み
上げてあった。
 今回の宿題は、日付を指定しての日記。作文の初歩の
課題ながら、内容も楽しみなのが人情である。
 まず一冊目。開くと、粗っぽい字が飛び込んできた。

『○月×日 はれ
きょうは、ねえちゃんが帰って来てたから、おみやげ
もらった。
山の向こう側の国のどうりょく車のプレートだった。
ねえちゃんのおみやげのセンスってわからない。』

 横にはプレートの絵らしく、四角に文字が書かれたも
のが書いてあった。なんだかんだで嬉しかったらしい。
『おみやげよかったですね。
おねえちゃんに、旅の話を聞いてみたらおもしろいか
もしれませんね。』
姉の方とも少しだけ面識があったのだが、相変わらず
のようでなんだか和んだ。
朱を入れて次のノートを開く。次は少し大人びた字が
並んでいた。

『○月×日 はれ
きょう、図書館でIBCのマリアベルさんをみかけま
した。
美人で、きれいで、とってもすてきな女の人でした。
かしこい人だとも聞いています。わたしもああいう人
になれたらいいなあと思いました。』

 マリアベルも以前に受け持った事がある。あの頃の彼
女をふと思い出して笑みがこぼれた。今、こうやって子
どもの憧れになっているというのも、また嬉しい。
『いろいろな事に興味をもつようにしてください。
まずは、たくさん考えることですよ。』
さらさらと朱を入れてノートを閉じた。

 日記の山はまだまだ続く。

『○月×日 はれ
きょうは遊びに行ったあとで、おねえちゃんのお料理
のお手伝いをしました。
レタスをちぎってサラダをつくったら、おばあちゃん
にもほめられました。
とてもうれしかったです。』

『○月×日 はれ
きょうのタイムサービスは、魚屋さんが三割引きで、
八百屋さんが半額でした。
夕方五時までに帰らないといけないので、ざっか屋さ
んの五時からのタイムセールにぼくは行った事があり
ません。
いつか行ってみたいです。』

『○月×日 はれ
きょうは、ロイドが新しいレコードを買ってきてたの
で、夜にみんなで音楽をききました。
きれいな曲がいっぱいきけたので、お休みの時間も、
みんな笑ってました。わたしもたのしかったです。』

 控えめな字、元気な字、几帳面そうな字、とそれぞれ
の字が並ぶ。
その一つ一つから、書いた子の性格や気持ち、個性が
伝わってくるようで、なんだか微笑ましい。
それぞれに朱を入れていくと、最後の一冊には控えめ
な字が並んでいた。

『○月×日 はれ
きょうは、リュウくんと、アンリくんとキーアちゃん
とあそびました。
ボールなげをしてたら、ツァイトも遊びに来たので、
みんなで遊びました。
とってもたのしかったです。』

 本人の性格通りの字。引っ込み思案で少し心配してい
たのだが、ここの所は友達と遊ぶことも増えたらしい。
「本当に良かったわね」
そう呟いて朱を入れ、ノートを閉じた。
ノートの一つ一つから、子ども達の声が聞こえて来る
ようだった。


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