≪前頁 ・ 第7回展示室へ戻る ・ 次頁≫

■ちゅんにい

【タイトル】 欲深い羊
【作者】 チュン・C・ニィ

 昔々のお話です。

 ある国にとても美しいと評判の領主の娘がいました。
その美しさは大陸中に知られる程で、
その姿を見てみたいという人間が後をたちません。

 しかし階級制度が厳しいこの国では
一般人がその姿を見る事など不可能です。
それに加え娘は重い病を患っており、
生まれてからずっと屋敷の中で過ごしていて
その姿を見たという人間は誰もいなかったのです。

ある日のこと、街の酒場で
男達は領主の娘の話題で盛り上がっていました。

「…一度でいいから見てみたいもんだなぁ」

「本当にいるのか?誰も見たことがないんだろう?」

「娘の主治医が言ってたぜ?とびきりの美人だってな」

「おい、どうだ?誰が一番早くその姿を拝めるか
勝負するってのは」

「面白そうだな、やってやろうじゃないか」

 男達は我先にと挑戦しました。

 悪知恵の働く詐欺師の男は大富豪の男に言いました。

「領主は金に困ってるらしいぞ」

「本当か?それなら」

 大富豪の男は自慢の財力で領主の機嫌をとり、
娘に会わせてくれないかと懇願しました。
しかし狡猾な領主に財産を搾り取られるだけで、
娘に会える事なく、
ついに破産してしまい国を去る事になりました。

 詐欺師の男は武器屋の男に言いました。

「お前の自慢の武器なら娘の部屋まで届くだろう」

「そうか?よぉし」

 武器屋の男は一目でいいので会ってくれないかと、
手紙を送る事にしました。
自慢の弓を使い、矢に手紙をくくりつけて
娘の部屋へめがけ放ちました。
しかし矢は大きく逸れ、屋敷を壊してしまったのです。
武器屋の男はすぐに捕まり、
一生牢屋ですごす事になってしまいました。

 詐欺師の男は大工の男に言いました。

「千歳一隅のチャンスだぞ」

「おう、そうだな!」

 大工の男は壊れた屋敷の修理を申し出ました。
修理中、娘の姿がもう少しで見えそうな
ところまで行きましたが、誤って足を滑らせ転落し、
二度と仕事ができなくなってしまいました。

 その後も男達が次々と挑むも成功者は現れません。

 そして誰も挑む者がいなくなったそんな時…

 詐欺師の男は警備員を横目で見ながら
堂々と屋敷の正門をくぐりました。
屋敷の人々からは最敬礼で迎えられ、
恐ろしい領主からも手厚いもてなしを受けました。

 領主が自ら娘の部屋へ案内して男を紹介しました。

「娘よ、新しい主治医がおみえになられたぞ。
若くしてとても優秀な方だ」

 詐欺師の男は聞こえない様に呟きます。

「勝負は俺の勝ちだな」

 広い部屋の中には豪華なベッドが一つ、
ポツリと置かれているだけでした。

「どれどれ、どんな娘なのかね」

 意気揚々とベッドの様子をみた詐欺師の男は
言葉を失いました。
そこには子供と思われる大きさの
骨が横たわっていたのです。

「前の医者は嘘つきでしたからね、
消えてもらいました」

領主の手には血が染み付いたナイフが握られています。

「さあ先生、どうか娘を治してください」


≪前頁 ・ 第7回展示室へ戻る ・ 次頁≫