■につきいし
【タイトル】 |
後継の子護り人 |
【作者】 |
につきいし |
賑やかな町を出ると、それまで周りで舞っていた風が
修道服を吹き抜け、肌に心地よい感触を与えた。
目的の村までは、徒歩でおよそ半時間程かかる。村で
行う、講義の内容をおさらいするのには、丁度良い。
少し歩幅を縮めて、馴染みの風景を楽しむ。だけど、
それは始めだけで、講義の内容を小声で繰り返している
と、目の前に子供達の笑顔が浮かび、足は勝手に歩幅を
広げてしまう。
かつて国中を混乱に陥れた一人である私が、周りに受
け入れて貰えるようになったのは、つい二年前の事だ。
その為に私は、武器を捨て、力を封じ、シスターの道
を選び、空の女神へ誓いを立てた。
もちろん、家族を始め、多くの仲間が助けてくれたか
らこそ、成し遂げたことを、忘れてはならない。
ふと、後ろから私を呼び止める声が上がった。
「おねーちゃん!待ってよー!」
振り返るまでもなく、今日も元気な我が弟である。程
無くして私に追い付く。
母親が仕立てた服と、お気に入りのスニーカー。着て
いる当人からは動きやすいと高評価だ。背丈程の棒を持
ち、胸には、父親お手製の遊撃士バッチを付けている。
「こーら、町の外に出たりして。今日は、お友達と遊ぶ
んじゃなかったの?」
「ちがうもん。おねーちゃんを、『ごえい』するんだも
ん!」
それは初耳だ。おそらく、友達の都合が付かなくなっ
て、とっさに私が出かける事に気が付いたのだろう。
「もう、しかたないわね。ちょっとまってね。」
とにかく、母親に知らせるため、導力器を取り出す。
通信時間が制限されているが、これを介して、いつでも
相手と連絡を取ることができる。
「・・・そう。ついてきちゃって。・・・ふふ。ほんと
、困った遊撃士さんだわ。」
不安そうな顔の弟に、大丈夫だからと目配せしつつ、
正式に『ごえい』の依頼をすることにした。
「このまま村まで連れて行くわ。・・・うん、大丈夫。
それじゃあね。」
通信が切れた事を確認し、導力器を仕舞った。変わら
ず不安そうな弟の前にしゃがみ、頭を撫でてやる。
「どこかへ行くときは、お母さんか、お父さんに言うこ
と。それと、家に帰ったときに、なにをしたか、もね。
遊撃士のきまり、ちゃんと守らなくちゃだめよ。」
いつもと同じ返事が返り、反省の色は見られない。ル
ールを守って行動できるようになるには、もう少し時間
が必要なのだろう。特に急ぐ理由は無いので、小言はこ
こで終わりだ。
立ち上がると同時に、弟は私の手を掴み、前を歩き出
した。
小さな手から私の手に、暖かさが伝わってくる。それ
が、私に教えてくれている気がする。
私は今、幸せなのだと。 |