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■サボ

【タイトル】 奇祭のあと
【作者】 サボ

 中枢塔第一層でまみえた怪盗フルブランは、実にトリ
ッキーな相手だった。
敵の奇術としか呼べない技で全員が小さくされた。攻撃
範囲は狭く、動きは遅く、そんな不利な条件下でようや
く敵を倒し、かかっていた術が解けて元の姿に戻った。
彼女を除いては。
「ユリアさん可愛い〜〜ッ!!」
エステルがぬいぐるみサイズの親衛隊長を抱きしめて喜
んでいる。
普通だれもやらない。というか、やれない。
当の本人は青い顔をしてなすがままだ。
「え、エステル!その辺にしないとユリアさんが苦しそ
うだよ」
ようやくヨシュアが止めに入る。エステルはユリアの表
情を見てあわてて体を離した。
「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?」
「・・・ああ。もう少し加減してくれるとありがたい」
しかし、困ったことになった。
ユリアはそう言ってため息をついた。
「皆はすぐに戻ったというのに・・・」
「でも、術者はもうここにいませんし、しばらくしたら
元に戻ると思いますよ」
「そうか・・・」
ユリアは自分の剣を鞘から引き抜いた。
ご丁寧にも衣服から装備に至るまでミニサイズだ。
「これでは皆の足を引っ張るだけだ。すまないが、三人
で先を進んでくれないか?」
「・・・一人で戻るのか?」
それまで黙っていたミュラーが口を開いた。
お国柄か、それとも日ごろ幼馴染の行動に目を光らせて
いるせいか、この帝国軍人になんとなく監視されている
ように思えて、視線を逸らせながらユリアは頷いた。
「そのつもりです。なるべく早く代わりのメンバーに来
てもらうように・・・」
言い終わる前に、ユリアの視点がいきなり高くなった。
見上げるばかりだったミュラーの顔が近くにあって、は
じめて抱えられていることに気づく。
「しょ、少佐!」
「ヨシュア君、エステル君。ここまで来て悪いが一旦全
員で船に戻ろうと思う。どうかな」
ユリアの言葉は綺麗に無視して、ミュラーはヨシュアと
エステルに視線を向けた。
「僕もその方がいいと思います。今のユリア大尉を一人
に出来ません」
「あたしもそう思う。だってユリアさん、あたしの腕さ
えほどけなかったでしょ?」
そう言われてしまえば、ユリアには返す言葉がない。
いくら相手が上位の遊撃士といえ、本来なら少女に負け
るような鍛練は積んでいないはずだ。 
「・・・しかし、時間が惜しい」
「時間より優先させるべきものがある。それだけのこと
だ」
片腕でユリアを抱きあげたまま、ミュラーは塔の入り口
へと向かう。
「少佐、せめて降ろして下さい!」
「断る」
そんな会話を後ろで聞きながら、ヨシュアとエステルは
自然と顔がほころんだ。
「なんだかさあ、ミュラーさんはユリアさんに甘いわよ
ねぇ」
「表情には出ないけど行動は素直だよね」
「言えてる〜。でも自覚してなさそう」
「・・・それ、僕らが言うなって話じゃない?」
そんなことを言いながら年少組が微笑ましく見守ってい
ることを、大人組は知らない。


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