■神楽風香
【タイトル】 |
オスカー、覚悟なさいっ! |
【作者】 |
神楽風香 |
「オスカー! 勝負ですわ」
店番をしているオスカーの目の前に
自信満々のベネットが立ちふさがる。
「あ、あの……ベネット。
今は、営業中……」
「うるさい! 勝負するったら
勝負するの!」
店の中にはたくさんのお客もいるというのに。
ベネットの暴走にオスカーは逃げる隙を捜す。
と、 その時……
「オスカー、いるか?」
それはオスカーにとっては救いの神とも言える
幼なじみの声だった。
「よっ! ロイド、いらっしゃい。なんだ?
食料調達か?」
「あぁ……今度の非番エステルたちと
魚釣りへ行こうかと思って。
ティオとエリィがお弁当作ってくれるって
言うからさ」
それを聞いたベネットが大声を張り上げる。
「だったら、私が作った新作を使いなさいな」
そう言いながらロイドの胸へ
パンが山ほど入った紙袋を押し付ける。
「え!? あ、あの……ブリオッシュとか
バケットとかが欲しいんだけど」
「遠慮しないの。これは私が作った新作。
全部、タダでいいわ」
「ベネットっ!! いい加減にしろよっ!
ロイド、困ってるじゃないか!」
目に余る傍若無人ぶりにオスカーも苛立つ。
そんなオスカーを静かに見つめ、
ベネットはこう言った。
「だったら……私と勝負しなさいよ。
これでもオスカーに負けないぐらい
頑張って新作パンを作ったのよ……
一口ぐらい、食べてくれてもいいじゃないっ!」
瞳に涙を溜めて訴えるヴェネットの頭を
オスカーの手がポンポンっと叩く。
「しょうがねぇな。
ロイド、その中のパン一つ寄こせよ」
「あ、あぁ……」
ロイドの手から受け取ったパンを
ひとかじりすると、渋い表情を浮かべる。
そして、こう言い切った。
「ダメだ……」
「なっ、なんでよっ! これでもっ!」
「ダメだったら、ダメだ。これじゃ……
屋台、任せられない」
「え? い、今なんて言ったの?」
呆然とオスカーを見つめるベネットに向かい、
はっきりとこう言った。
「今度の屋台、
ベネットに任せるって言ってるの。聞こえたか!」
あまりにも嬉しい言葉にベネットは
半べそをかいていた。
その様子に焦りつつもオスカーは続けてこう諭した。
「いくら試作品でも、おれの友人であっても、
あんな風に押し付けたりするな。
投売りみたいに『タダでいい』なんて言うな。
それには、ベネットが込めた気持ちってヤツが
入ってるんだからさ」
オスカーの言葉に、ベネットは
コクンと何度も頷きながら、
嬉しそうに笑い続けた。 |