■つばめっこ
保養地ミシュラム。
急速な発展を続けるクロスベル自治州において
特に大きな変化を遂げた地域。
元々は富裕層向けの別荘地であったこの場所。
近年、大規模な観光地開発が進められ、
クロスベル最大のプレイスポットに生まれ変わった。
数ある施設の中でも最大の人気を誇るのが
テーマパーク《ワンダーランド》だ。
———俺の今の職場でもある。
ワンダーランドの人気はすさまじく、
毎日多くの観光客で溢れている。
その理由はなんと言ってもマスコットキャラ
《みっしぃ》の存在であろう。
彼?の周りにはいつも人だかりが出来る。
記念撮影、握手、サイン、イタズラ。
用件は人それぞれだが、みんな彼?が
大好きなのである。
そんな中、俺の仕事はまぁ、なんというか・・・
みっしぃを縁の下で支える、いわば《相棒》だ。
だから彼?の人気をいつも肌で感じている。
肉体的にも精神的にもキツイ仕事だが、
その中で楽しみにしている事が二つある。
まず昼食だ。
ミシュラム内にあるレストラン《フォルトゥナ》、
ここの弁当がとても楽しみなのだ。
昼の休憩になったらフォルトゥナへ走る。
全身汗にまみれた状態だが気にしない。
お気に入りはワンダーランドとのコラボ商品。
「みっしぃ・ランチボックス」
通称《みし弁》だ。
子供向けの商品と侮る事なかれ。
味良し、量良し、値段良し。
三拍子揃った弁当界のミスター?パーフェクト。
それが《みし弁》なのだ。
肉体労働でお腹はペコペコ。
空腹は最高のスパイス。
俺にとって昼食は至福の時間である。
もう一つの楽しみ、俺の最大の楽しみは
ワンダーランド名物ナイトパレードにある。
パレード自体が楽しみなのではない。
パレードが終わった後、家に帰って行く
お客さんの顔を見るのが大好きなのだ。
———みんな、とても、いい笑顔なのである。
活力に溢れた笑顔。
アルカンシェルの一流演劇人でも真似できない
自然な笑顔。
俺たちの努力の果てにある極上の笑顔。
高額なチップなんかよりも。
練りに練った感謝の言葉なんかよりも。
俺の心を震わせてくれる。
「この仕事、やってて良かった」と。
その瞬間が欲しいから俺は働いている。
おそらくこの感覚は俺だけでなく、
全ての職業人に通じるものであろう。
辛いだけ、金を得るだけ、そんな仕事は続かない。
何らかの形で働く喜びを得ているからこそ
どんな仕事でも続ける事が出来る。
そういうものだと思うし、そうありたいと思う。
だから俺は明日も働く。
おいしくご飯を食べる為に。
心震える笑顔と出逢う為に。
俺の《相棒》とともに「いつものメッセージ」を
みんなに届ける。
「こんにちは!ワンダーランドにようこそっ。
みししっ、楽しんでいってネ〜!」
おわり——— |