■親父フェニックス
【タイトル】 |
タベテナイヨ? |
【作者】 |
親父フェニックス |
それは、休日の午後の静寂を打ち破った。
「あああああーーーー!!」
それを皮切りに足音がドタドタと木霊し、
いつもの面子が一堂に会した。
「なんだってんだ!?」
ランディが叫ぶ。その視線の先は調理室の扉だ。
「ただ事じゃありません」
ティオは冷静に、しかし心配気に言う。
「とにかく行こう!」
ロイドの言葉に頷き、そして三人は地獄の釜を開けた。
三人が調理室に入って見た光景、
それは冷蔵庫を開けたまま硬直するエリィだった。
「え、エリィ……?」
ロイドは恐る恐る話しかける。それも当然、硬直する
エリィの背中は恐怖だとかそういうマイナスの雰囲気を
出してはいない。いやマイナスはマイナスなのだが、
それは不安に思っているとかそういうことじゃない。
怒りに燃えている。
メラメラと精神世界で奮える炎が見える。
三人の顔は青ざめた。
「————ねぇ……」
ゆら、と。陽炎のように振り向いたエリィに三人は縮み
上がり、ロイドの伸ばしかけた手は空間に固定された。
「え、え、エ、エエエエエリィさん……?」
「なぁにティオちゃん?」
にっこりと笑うエリィが怖い。そう言えたらどんなに
救われることか。その女神のような微笑でティオの精神
はガリガリと摩り減った。
ティオの危機に立ち上がったランディが言を繋ぐ。
「な、なにを怒ってらっひゃるんでひょうかぁ?」
どもり噛んだランディはそれでも男だった。エリィの魔
眼を懸命に耐えている。
そしてエリィの口から原因を聞くことに成功した。
「キーアちゃんのために作っておいたプリンがないの。
あなたたち、知らない——?」
知らない、の件で正面から熱い吹雪が吹いてきた。
がくがくと震えるティオの前に立った男二人は
その両手で必死に顔を守りながら答える。
「し、し、知らない!」
「お、俺もだ!
てぃ、ティオすけも知らねぇってよ——っ!」
ちなみにティオは何も言っていない。言葉が言えない状
態なのだ。
その答えにエリィはあらあらと困ったように笑う。
手の甲が顎に当てられた格好は考える人に似ているが、
それは氷の微笑を湛えている。
「じゃぁあ誰が食べたんでしょうねぇ。
ロイド、捜査官資格持ってるでしょ?
犯人捜してよ?」
この場に来れば自供します、と言いたかった。しかし
怖くて言えなかった。
この場は頷きとりあえずの安心を勝ち取ろう。
そう判断して肯定の意を伝えんと口を開いた。
「俺が食べました……——あれ……?」
しかし何故か違う言葉が出てきた。
おかしいな、これじゃあまるで犯人のようだ。
吹雪が止んだ。しかし助かったとは思えなかった。
なぜならそれは嵐の前の静けさ、
津波の前に潮が引くのと同じだからである。
「ふ、ふふ、ふふふふふふふふふふ……」
おかしいな、視界が滲む。ロイドはそう思い、
そして自分が涙を堪えているのを自覚した。
俺はここで死ぬ。そう思った。
「ロイドォーーーーーーーーー!!!!」
ここに事件は終焉を迎えた。
遊びに来た子にあげたという真実は曝せなかった。 |