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■親父フェニックス

【タイトル】 魔獣から始まる問いもある
【作者】 親父フェニックス

「魔獣と動物の違いってなんだろう」

 その呟きにその場にいた全員がロイドを見た。

「いきなりどうしたの?」

 エリィが代表として聞く。ロイドは唸った。

「俺たちは時々、いや結構だけど、魔獣と戦うだろ? 
でもその魔獣は『魔獣』だから魔獣であって、
じゃあその『魔獣』って線引きはどこなんだろう」
「え? えーっと——」
「つまり、
普通の動物と魔獣との違いを知りたいんですね」

 魔獣連呼にエリィは少し混乱し、
ならばとティオがまとめた。とは言っても
最初のロイドの呟きを繰り返しただけである。
雑誌を捲っていたランディは
ソファの背もたれに寄りかかった。

「んなもんアレだ。見た目」
「いやそれは違うだろ」
「魔獣は——」

 ティオは一度言葉を止め、少し溜めた後に言った。

「魔獣は、七耀石を好む性質を持っています。だから
討伐後にはその魔獣が飲み込んだ七耀石の欠片が
手に入るわけですし、そこじゃないでしょうか」
「後は言ってしまえば、自分たちに害があるかどうか
でしょうね。ティオちゃんが言った性質とかは一般の方
には関係ないもの。日常生活に七耀石が
不可欠である以上、切り離せないけれど、ね」

 ティオの言葉に補足してエリィがまとめ上げた。
その結論にティオもランディも納得の表情をしている。
しかしロイドはまだ変な顔をしていた。

「お嬢の言葉じゃ物足りないってか?」
「いや、納得はした、けど……」

 ランディはあのなぁと吐き、

「俺たちにとって重要なのは魔獣か動物かじゃねぇ、
それが俺たちにどう影響するかだ。
害があれば動物だって処理するし、ないなら魔獣でも
ほっとく。そういうもんだろ」
「魔獣かそうでないかを決めているのは私たちです。
魔獣だから悪いわけじゃない。
でも人間の害が魔獣なら倒します。私は人間ですから」

 ランディの言葉は警察として正論だ。
ティオの言葉は人間として正解だ。
しかしロイドはまだしっくりこない。
一体何としての答えが欲しいのだろう。

「……私たちは、魔獣をたくさん討った。
それは困っている人がいたから。
困っている人を救える力があって、
救う意志があったから」

 エリィは誰に話すでもなく呟いた。
透き通るその声にロイドは聞き入った。

「警察だから助けたんじゃない。
人間だから討ったんじゃない。
私だから、ランディだから、ティオちゃんだから。
そしてロイド、貴方だから。
相手が魔獣だから動物だからじゃなく、
貴方がロイドだからそう行動した。でしょう?」

 ストン、と。何かが降りてきた気がした。
エリィを見る。
そこには微笑があって、求めていた答えがあった。

「俺は俺だから、か」

 相手どうこうじゃない。
自分だからそう考え、救い、討った。
本質はそこなのだ。
胸のつかえが取れた気がした。

「ありがとう、みんな」

 不意に感謝したくなって、その感謝に笑みが零れた。

「で、結局違いはいいんですか?」
「え? えーっと……」
「後で問い合わせましょうか?」
「ふとした疑問から人生相談みたいになったなぁ」

■親父フェニックス

【タイトル】 シスターレニ
【作者】 親父フェニックス

「これが極めて異例であるということは理解している
ね」
異例というより初のことだと彼女は思ったが、しかし黙
って聞いていた。
「我々はキミを歓迎しないが、迎えはしよう。ようこそ
典礼省へ、正騎士レニ……いや、シスターレニ」

 初仕事が重役の苦言を聞くことだとは思っていなかっ
た。レニは肩に溜まった疲労を和らげるように揉みなが
ら、歩く。想像以上に困難な仕事になりそうだと内心で
ため息を吐いた。

 任務中の負傷によりレニが封聖省から典礼省へ
異動することになったのは一週間前のことだ。
始めはこの異動に異を唱えていたが決定が覆らないこ
とはわかっていた。だからといって今までの人生を否定
されるようなこの決定を容易には認められなかったのも
事実であった。
物心ついたときから戦場にいた。それは人間同士の争
いではなく魔獣との争いでもなかった。それは他でもな
い異形のもの。聖典に表される悪魔や亡霊などの人智を
超えた存在との争いだった。
レニは生きる為にそれらと戦い続け、また戦い続ける
ために生きてきた。
そんな彼女が七耀教会の一員になることは自明の理で
あったが、レニは度重なる任務の疲れか一瞬の隙を突か
れ、結果として戦闘離脱を余儀なくされた。
戦うことが全てであったレニにとってこの結末は破滅
に他ならない。だからこそレニは拒否し、最悪教会を離
れるつもりでいた。
そんなときだ。守護騎士の一人、アイン・セルナート
と出逢ったのは。

レニは一つしかない腕に教典を持ち、これより巡回神父
として各地を廻る。女であるのに神父なのかと思わなく
もないが、短い髪と凛々しい顔立ちは男に見えなくもな
かったので舐められないためにもいいのだろう。
尤も、七耀教会を敵に回そうとする物好きが多くいる
かは疑問だったが。
「紅耀石。私が貴女の望みを叶えてみせよう」

 典礼省は一般的な教会のイメージに沿う行いを担当し
ている。各地の教会に付き、日曜学校を行う。求められ
なくとも教えを説き、求められれば教会独自の調合薬を
渡す。
一方で封聖省は早すぎた女神の贈り物、アーティファ
クトの調査、回収、管理に始まり、果ては戦闘までも行
う。
その行いに対して典礼省は基本的にいい顔をしない。
中には封聖省縁のものを担当区域に近寄らせない者まで
いる。
その現実を憂い、両者の壁を壊してほしいと願う者が
いる。
「アルテリアから共和国までは遠いな……」
典礼省に回された封聖省出身は初だ。故にその役目を荷
うのは自分しかいない。
そう思うと不思議に気力が溢れた。

「結局のところキミが倒すのが悪魔でなく人間になった
というだけだ。武力でなくその全てでな。簡単だろう、
キミは今までどおり戦うだけでいいのだから」
駆逐すべきは異形ではなく意識。
ならば今まで全てを駆逐したレニにできないはずがな
い。幸い目もつけられているのだ。
精々目を丸くさせてやろう。

 典礼省という新たな敵を見つけて、シスターレニは旅
立った。


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