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■地獄卍固め

【タイトル】 The man with fist
【作者】 地獄卍固め

 それは丁度、昼食の時間帯。
 ダドリーが後輩のロン捜査官と、港湾区の
屋台でラーメンを食べていた時の話であった。
 
「ダドリー先輩って、どうして
導力銃を使ってるんですか?」

 ふと、ロンの口から出たその言葉に、
ダドリーは不思議そうな表情で彼に視線を向けた。
脈絡の無さもそうだがそれ以上に、
質問の意図がまるで分からないからだ。

「ロン、それはどういう意味だ?」
「いえ、この前の捜査を少し思いだして。
先輩、肉弾戦でも強かったじゃないですか」

 この前の捜査とは、ある犯罪組織のアジトへ
乗り込んだ時の事だが、そこでダドリーが見せた
立ち回りは、ロンの脳裏に深く焼き付いていた。
何せ彼は、相手が集団で固まっていれば
豪快にビクトリーチャージで纏めてふっ飛ばし、
また別の相手には全身全霊を込めた鉄拳こと
ジャスティスハンマーを叩き込みKOさせたりと、
手に持つ導力銃が霞む程の格闘術を
披露しているのだから、無理も無い話だろう。

「あれだけ心得があるのでしたら、
例えばトンファーの様な近接戦様の武器を使った方が
寧ろ向いているんじゃないかなと……」
「……成る程。
だから、どうして銃を使うか……か」

質問の意味を理解し、同時に当然の疑問だとも
ダドリーは素直に感じた。
確かにロン達からすれば、今の自分には銃よりも
そういう武器が、余程似合っているに
違いないのだろう……と。

そう……「今」の自分には。

「まず誤解の無い様に言っておくが、
私は導力銃を昔から使っている。
格闘の技術は、そのカバーの為に
後から身に着けたものだ。
別に、素手が私の本分というわけじゃないぞ」
「え、そうなんですか!?
てっきり、そうだとばかり……」

 信じられないと言わんばかりの表情で
驚きを露わにするロンに、ダドリーは軽い
溜め息をついた。
彼の言葉に、ふと昔を思い出したのだ。

(あれから6年か……早いものだな)

 それは6年前。
各地の警察と遊撃士教会、及びその協力機関が
一丸となって、「教団」と呼ばれる犯罪組織の
拠点に対する襲撃計画を練っていた時の事だった。
その休憩時間中、当時同じ部署に所属していた
ダドリーの同僚が、いきなり一人の遊撃士を
彼の前に連れて来たのだ。

『ジンさん、紹介するぜ。
俺の同僚のダドリーだ。
よかったらさ、こいつにちょっと素手の
闘い方ってのを教えてやってくれないか?
今度の仕事は大捕物になりそうだし、もしこいつが
得物をぶっ壊しでもしたら大変だからな』

(全く、あの時は呆れて物が言えなかったな。
私の意志も確認せず、半ば強引に……だが。
そのお節介に何だかんだ今も助けられている、か)

 ラーメンの湯気で曇る眼鏡の中、ダドリーは
静かに瞳を伏せ、柄にもなく感謝の意を心に浮かべた。
今の己が幅広く犯罪者や魔獣と戦えているのは、
あの日の出会いがあったからに他ならない。
自らに手ほどきをしてくれたジンと……そして。
彼と引き合わせてくれた、今は亡き
あのお節介焼きのおかげだ。

(感謝するぞ……ガイ)


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