■takku
私にとって"アイツ"の存在は、いつも飄々としていて
掴み所が無く、気が付けば振り回されて苦汁を飲まされ
ている事も少なくない……そんなイメージ。
でもそれは、どうやら私だけの物ではなかったようだ。
『特務支援課』──そこが、"アイツ"の新しい居場所
だと聞かされた。
そこでも相変わらずのノリで、同僚の人達と接している
らしいが、不思議とモメることもなく上手くいっている
らしい。
柄にもなく"アイツ"自身もそれなりに気遣っているの
だろうか?
だとしたら、それはとても悲しい事だと思う。
私達と一緒の時は、そんな気遣いなんて一切見せてくれ
なかった。
いや……むしろ意図的に"私達と距離を取ろうとしてい
た"節さえ見受けられたのに。
だが、今の"アイツ"はむしろ本当の自分を新しい仲間
達に晒け出しているように、私は感じた。
私達は『特務支援課』の人達と同じ様にはなれないの
だろうか?
そんな事を思っていたある時、私達に事件が襲い掛かっ
て来た。
とある組織が開発したという薬物によって、ルバーチェ
に私達警備隊のまでもが"アイツ"の敵として立ち回る
事になってしまった。
圧倒的な物量と戦力……やりようは幾らでもあったはず
なのに…それでも彼らは、戦う道を選んだ。
その結果、私達は戦うことになった。
操られ、自らの意志を完全に封じられた私達と、"アイ
ツ"やその仲間達との死闘。
事件後、それを聞いた時、当然私は流石に信じる事が
出来なかった。
薬の影響下だったとは言え、かつての同僚に牙を剥く
など、ありえない事だから。
それでも"アイツ"は笑っていた。
笑ってたと言っても、私達の事をあざ笑うとかそういう
のじゃない。
"アイツ"はただ「心から守りたい物を自分達で守り
抜いた」事に対して、心から笑っていたのだ。
その事を理解した時、私は心に大きな衝撃を受けた。
私達は警備隊ーーエレボニア、カルバードの2大大国の
驚異からクロスベルを守る事が私達に課せられた使命。
確かにそうだけど、だがそれだけ。
課せられたという事に満足していた自分達と違い、数々
の任務で、直にこのクロスベルに生きる人達と接し、
己の守りたい物として心に刻み続けてきた彼等私達には
雲泥の差があった。
余りに不甲斐ない、愚かな自分が情けなくて、声を荒げ
て泣きそうになる。
そうしたら、"アイツ"は三度笑って
「だったら、お前自身の手で守りたい物を心に刻めば
いいだけの事さ」と告げた。
その時の私の表情は、絶対に今の"アイツ"に見せられ
た物ではなかったと思う。
だからこそ、慌ててその場を取り繕うように必死に誤魔
化した。
でも、もしこんな『弱い』私でも、"アイツ"の
ように笑顔を振りまけるようになれるのなら……
そう思ったとき、私は自然とまたアイツには決して
見せたくない笑顔に戻っていた。 |