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■志村 秋人

【タイトル】 老兵はただ去るのみ
【作者】 志村 秋人

「馬鹿者! キサマそれでも遊撃士かっ!」
 とある遊撃士協会支部の一室に、建物が揺れる程の怒
鳴り声が響いた。そこには一人の老人と若者が一組…。
どうやら説教タイムらしい。
「あ、あの〜、お言葉なんスけど…」
「ええい! 誰が口答えを許したのじゃ!」
 老人の怒りは留まる事を知らず、若者はただ頭を低く
して年長者の言葉を待つのみ。
「よいか小僧? 遊撃士たるもの市民の安全のために努
力を怠ってはならんぞ」
「はぁ、それはごもっともなんスけどねぇ」
 若者は老人の言葉を真面目に聞く気がないのか、言葉
使いはあまり褒められたものではいように聞こえる。し
かし、老人は厳しい表情を和らげ若者に語った。
「ワシもお前のような若い頃は、様々な仕事が面倒だと
思った事がある。だが、信頼とは小さな積み重ねで生ま
れるものなんじゃよ。」
 しかし、若い遊撃士は何かを言いたそうだった。老人
は柔らかな微笑を浮かべて問う。
「よし、お前の意見も聞こうじゃないか。話してみよ!」
「あ、いいんスか? あのですね…」
 若者は慎重に言葉を選び、とうとうそれを口にした。
「あー、え〜っと。お爺さん、どこのどなた様なんスか
? ご家族はどこにいるんスか?」
「む! ワシか?」
 その時、入り口から駆け込んできた女性がお爺さんを
見つけたように声を上げた。
「もう! お爺ちゃんったら! こんな所にいたんです
か、探したんですから〜!」
「…はて、お前は誰じゃ?」
「何言ってるんですか、孫の顔も忘れたなんて情けなく
なってくるわ!」
 女性は今度こそ捕まえたとばかりに爺さんの腕を掴み
つつ、若い遊撃士へと何度も頭を下げる。
「すいません、うちのお爺ちゃんがお世話になりまして
…。大変ご迷惑をかけました」
「あ〜、いえ、お構いなく。ぜんぜん大丈夫っス!」
 どうやら語尾に〜スをつけるのは彼の口癖で、別に素
行が悪いわけではないようだ。
「さあ、お爺ちゃん帰りますよ。本当にすいません」
「これ孫よ! 今日の朝ご飯はなんじゃ?!」
「何言ってるんです? さっき食べたじゃないですか。
本当にボケちゃって…」
 やけに偉そうで、まったく関係ない老人とお孫さんは
、あっさりと帰っていった。
「お孫さんも大変っスね。でも初心に帰った気持ちっス。
今度来たらお茶でもご馳走してあげるとするっス」
 …遊撃士協会には色々な人がやってくる。相手に合わ
せて対応するのも、これが案外、難しい仕事なのだ。


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