■まなぶくん
西通りにある《モルジュ》。
確かな腕のパン職人によって作られる様々なパンはどれ
もこれもおいしそうで、選ぶのには自然と時間を費やして
しまう。
「お、ロイド。今日の昼はパンか?」
「たまには外の物も食べたくなるからな。モルジュのパン
はうまいし。」
「ありがとなー。あ、そうだロイド。明日も同じ頃来れるか?
ちょっと頼みたい事があるんだ。」
「たぶん大丈夫だと思うけど…何だ、頼みたい事って?」
「これの試食を頼まれたんだけど。」
いい匂いと共に袋から出て来たのは、困った眉が特徴的
なミシュラムのご当地キャラ、"みっしぃ"の形をしたパ
ンだった。
「今度新作パンとして出したいらしくて、みっしぃの大フ
ァンであるティオにぜひ意見を聞きたい……ってティオ
聞いてるか?」
目をキラキラさせ、広げられたみっしぃパンに釘付けな
少女の姿がそこにはあった。
「この再現度はすばらしいです…! 1みっしぃごとの微
妙な表情の違いも何とも言えません!!」
「…はは、とりあえず見た目は問題なさそうだな。後は味
かな。」
1つ手に取って食べてみる。
「お、これ中にクリームが入っているのか。うん、味もさ
すがだな。これなら問題な…」
テーブルのみっしぃに釘付けだった瞳が、今度はこっち
に向けられている。
「……ティオ? どうした?」
「食べましたね…」
「え……」
「私が食べようと思っていたみっしぃを食べてしまうなん
て、ロイドさんひどいです。あとそんなあっさり食べな
いで、もっと愛でてから食べるべきです!」
「ご、ごめん…。」
「まぁいいです。こっちのみっしぃもそちらのみっしぃに
劣らないナイスみっしぃですので。」
そう言ってロイドには良くわからない、ナイス(らしい)
みっしぃパンを、満足そうにじっくりと眺めてから食べる
ティオであった。
「形も味も、文句のつけ所がないですね。チョコクリーム
にしても良いかもしれません。」
「わかった、オスカーに伝えとくよ。」
「…ところでロイドさん、まだ残っているみっしぃパンで
すが…。」
「これはまだ食べてないみんなの分だから、食べちゃダメ
だぞ?」
「…そうですか、残念です…。」
「ハハ、早くお店に並べるようにしてくれってのも伝えて
おくから。」
「ええ、ぜひ!」
モルジュに"みっしぃ"が来る日はきっと近い——。 |