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■ステア

【タイトル】 クウの憂い(上)
【作者】 ステア

 女神エイドスは言われました。

「一つの世界を創ります。貴方たちはそのために
生まれたのよ。だから、仲良くしてね」

 世界にセイメイやバンブツをもたらすには、
私たちが必要とのことでした。私たち、姿も役割も
違う七耀の妖精は互いになんら疑問を持つことなく、
これから創造する世界に降り立ちます。
私、空の妖精クウは天上に。水の妖精アオや
地の妖精ドリィ、火の妖精ファイは地上に。風の妖精
スーは天上と地上を行き来することに決めました。
世界に影響を与えすぎてしまうため、時の妖精ティムと
幻の妖精シャドウは深い眠りについてしまいます。
すると、世界は徐々に構築し始めたのです。
私は気象を創りました。
アオは海を創りました。
ドリィは陸を創りました。
ファイは熱を創りました。
スーは大気を創りました。
ティムとシャドウは時空を創りました。

 それからしばらく平和で、変化のない時が流れます。
時間にして、何十億年という月日が。
しかしある日、スーから風の便りがきたのです。

「地上が荒れている」

 私は慌てました。この頃は地上を見守ることをやめ、
天上ばかり気に掛けていたのですから。なにせ、
地上には他の妖精たちがいる、心配することはないと。
不安がなかったと言えばウソになります。
私と対なす、分身とも言える地の妖精ドリィは気弱で
やんちゃなファイとぶつからないか。だけど、
しっかり者のアオがいるから大丈夫。
実のところ、そう自分に言い聞かせていたのです。
後悔を胸に地上の様子を見ると、一見してその違いに
驚きます。陸は震え、地割れを起こし、海は大波を立て
所々洪水を起こしています。果てには、陸上や海中の
火山が勢いよく噴火しているではありませんか。
私はスーを呼びました。この惨状の経緯を
聞くために。

スーによると、原因はアオとドリィとファイによる
喧嘩だというのです。私の予想は不幸にも的中し、
なにかが頭をよぎりました。遠い昔、世界が始まる前の
こと。女神エイドスが私たちに忠告された言葉。それが
なんだったか思い出せないでいると、スーは地上で
あった詳しい事情を話し始めていたのでした。

 やはりいざこざの火付け役はファイにあったのです。

「近づかないでくれよお。ボクは、熱いの苦手なんだ。
君が来ると、何億年もかけて生まれた
植物たちが燃えてしまう」

「そうよ。私は平気だけど、ドリィが可愛そうで見て
らんない。ファイ、貴方向こうへ行ってくれない?」

 ドリィを庇うようにアオがファイをはねつけます。
私は知らなかったのですが……ドリィとアオは陸と
海の近い関係で、お互いが恩恵を受け合うために仲が
良く、何者も寄せ付け難い、常に燃えている姿のファイ
だけが両者に敬遠されているのでした。

「なんで俺ばかり悪者扱いをする。
好きでこんな姿で生まれたわけじゃない」

■ステア

【タイトル】 クウの憂い(中)
【作者】 ステア

 スーはこの様子を何度も見てきたようで、今回も
ことなく終えると思い見ていました。風と同化した
彼の姿は誰にも見えてはおらず、不穏な空気に割って
入ることもできず……苦い思いを噛みしめながらも。
 いつもなら怒って反論するファイの頭に、アオが
大量の水を浴びせて、場が収まっているようでした。
火の妖精ファイは、水の妖精アオには頭が上がら
なかったのです。水をかけられれば火は無力。まさに、
ファイは一方的に頭を冷やされる状況が続きました。
 この時ばかりは、焼け石に水。不満を溜めに溜め
続けたファイはかけられた水を優に蒸発させる熱を
帯び、辺り一面を火の海にかえてしまいます。

「森が、木々が。みんな燃えてしまうよお」

 即座にアオが鎮火したものの、ファイの怒りは
おさまらず、またアオも逆上し、今に至ったようです。
ドリィの慟哭が地上を轟かせ、アオの悔し涙で海が
騒ぎ、ファイの怒りがマグマを滾らせました。
妖精同士の争いは初めてで、ただ事ではないと感じた
スーは騒ぎの元凶であるファイの説得を試みます。

「ファイ。いつまで怒っているんだ。
同属で喧嘩なんて、下らない」

「スー、いたのか。同属?
笑わせる。あいつらは俺をのけ者にした」

「自分は君たちがもつ姿すらない。孤独での
苦しみなら、自分のほうが上だ。独りなのは
クウもそうだろう。ましてや、眠ることでしか
世界に顕現できないティムとシャドウはどうなる」

「……それもそうだが」

「これまでだってドリィとアオには我慢してきたんだ。
仕方がないと君から折れてはくれないだろうか」

 しばらくの沈黙が流れます。スーは分かりあえたと
期待しましたが、そうではなく、

「これまでって……お前、見てたのか。昔から、全部」

 スーはこの時、言葉を選び間違えたのでした。結果
としてドリィの怒りは増し、あらぬ誤解をよびます。

「お前、実は姿が見えないのをいいことに俺たちの
言い争いを傍観して、笑ってたんじゃないのか」

「それは違う! 自分は口惜しかった。
君をかばおうにも、張れる体がないのだから」

「いいやお前は楽しんでいた。
もういい。お前と話すことはない」

 ファイからすれば、スーが自分を一度もかばって
くれなかったことは確かで、傍観されていたと感じる
にはたりる事実でありました。スーはファイを
説得する機会を失い、私に助けを求めたようです。
このままではティムとシャドウが目覚めてしまう。
そうなれば、世界のバランスは保たれないでしょう。

「スー、ありがとうございます。あなたは
手を尽くしてくれました。しかしもう一度だけ
最後に頼まれてはくれませんか」


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