■ステア
スーはこの様子を何度も見てきたようで、今回も
ことなく終えると思い見ていました。風と同化した
彼の姿は誰にも見えてはおらず、不穏な空気に割って
入ることもできず……苦い思いを噛みしめながらも。
いつもなら怒って反論するファイの頭に、アオが
大量の水を浴びせて、場が収まっているようでした。
火の妖精ファイは、水の妖精アオには頭が上がら
なかったのです。水をかけられれば火は無力。まさに、
ファイは一方的に頭を冷やされる状況が続きました。
この時ばかりは、焼け石に水。不満を溜めに溜め
続けたファイはかけられた水を優に蒸発させる熱を
帯び、辺り一面を火の海にかえてしまいます。
「森が、木々が。みんな燃えてしまうよお」
即座にアオが鎮火したものの、ファイの怒りは
おさまらず、またアオも逆上し、今に至ったようです。
ドリィの慟哭が地上を轟かせ、アオの悔し涙で海が
騒ぎ、ファイの怒りがマグマを滾らせました。
妖精同士の争いは初めてで、ただ事ではないと感じた
スーは騒ぎの元凶であるファイの説得を試みます。
「ファイ。いつまで怒っているんだ。
同属で喧嘩なんて、下らない」
「スー、いたのか。同属?
笑わせる。あいつらは俺をのけ者にした」
「自分は君たちがもつ姿すらない。孤独での
苦しみなら、自分のほうが上だ。独りなのは
クウもそうだろう。ましてや、眠ることでしか
世界に顕現できないティムとシャドウはどうなる」
「……それもそうだが」
「これまでだってドリィとアオには我慢してきたんだ。
仕方がないと君から折れてはくれないだろうか」
しばらくの沈黙が流れます。スーは分かりあえたと
期待しましたが、そうではなく、
「これまでって……お前、見てたのか。昔から、全部」
スーはこの時、言葉を選び間違えたのでした。結果
としてドリィの怒りは増し、あらぬ誤解をよびます。
「お前、実は姿が見えないのをいいことに俺たちの
言い争いを傍観して、笑ってたんじゃないのか」
「それは違う! 自分は口惜しかった。
君をかばおうにも、張れる体がないのだから」
「いいやお前は楽しんでいた。
もういい。お前と話すことはない」
ファイからすれば、スーが自分を一度もかばって
くれなかったことは確かで、傍観されていたと感じる
にはたりる事実でありました。スーはファイを
説得する機会を失い、私に助けを求めたようです。
このままではティムとシャドウが目覚めてしまう。
そうなれば、世界のバランスは保たれないでしょう。
「スー、ありがとうございます。あなたは
手を尽くしてくれました。しかしもう一度だけ
最後に頼まれてはくれませんか」 |