■ネム
「新しい釣具のテスト、ですか?」
ヨシュアは新しい依頼を聞き、少し顔を曇らせた。
「はい。釣公師団からの依頼で、
ビギナー用の補助具を作ったとかで、そのテストを
して欲しいとか。
エステルさんにぴったりじゃないですか?」
「…はあ」
ヨシュアは曖昧に頷く。
エステルの釣り好きは重症である。
釣りの依頼となったら一日中釣りまくるだろう。
それに付き合わされることを考えると
気が重くなったが、そんなことで依頼を断る訳にも
いかない。
小さくため息をつき、ヨシュアは依頼を引き受けた。
「今日は一日中釣りまくるわよ!!」
エステルが釣の準備をしながら嬉しそうに呟いた。
「…あんまりハメを外さないようにね」
ヨシュアが苦笑し、荷物を木陰に降ろす。
「ふふふ、ヨシュアも付き合ってよね。
なんたって依頼なんだから」
「…わかったよ」
依頼を引き受けた二人は、釣公師団本部で
補助具を受取り、ロマール池へとやって来た。
「ここに決めた」
エステルがポイントを決定した所で、ヨシュアが
エステルに補助具を装着する。
それは一見普通のジャケットだった。
「釣竿を持って…スイッチを入れるよ」
ヨシュアがリモコンのボタンを押した途端、
ジャケットが急に硬くなる。
「これじゃ全然動かないじゃない」
肩間接以外は上半身が固定されてしまった。
「センサーをつけて…完成だ。
エステル、釣りをしてみてよ」
「わかったわ」
釣竿を振りかぶり、仕掛けを投げる。
その五分後、当たりの反応が釣竿にあった。
「よし、いまだっ!って、ええ!?」
エステルが竿を上げようとした瞬間、身体が勝手に
反応して釣竿を引き上げていた。
「ちょっと、どういうことよヨシュア!?」
「見事に釣れているよエステル」
「カサギンだ!ってそうじゃなくて…」
「その補助具は初心者に引上げ時を教える為に、
センサーが反応してジャケットが無理やり釣竿を
引き上げるんだって」
「あんですって!?そんなの釣りじゃないわ!!」
憤慨するエステルとは対照的に穏やかに
微笑むヨシュア。
「エステル、僕達への依頼は釣りを楽しむことじゃ
なくて、補助具の性能を確かめることだよ」
「だけど…」
「もう一回やろう」
しぶしぶ竿を振るエステル。
今度は確かに釣竿に反応があるのに、身体が
勝手に動かない。
「ヨシュア、ジャケットが壊れたみたい…
ってえええ!!」
エステルが振向いた瞬間に補助具が反応し、
エステルの腕が高らかに上がった。
「もう一個の機能のテストをしてみたんだ」
「…もう一個の機能って何よ」
「魚が掛かると、このリモコンに
HITって表示されるんだ。
その時にリモコンの○ボタンを押すと、
押したタイミングでエステルの腕が上がるんだよ」
「なにそれ、アタシはロボットなの!?」
「さぁ、テストを続けようエステル」
「ごめんヨシュア、謝るからもう許して」
うな垂れるエステルの肩をポンと叩き
「今日は一日中釣りまくろうね」
ヨシュアは満面の笑みで答えた。
コメント:エステルが釣好き過ぎました。 |