──《エレボニア帝国》。

ゼムリア大陸西部において最大規模を誇るこの旧き大国では
近年、2つの勢力が台頭し、国内における緊張が高まりつつあった。

一つは《貴族派》──
「四大名門」と呼ばれる大貴族を中心とし、その莫大な財力によって
地方軍を維持し、自分たちの既得権益を守らんとする伝統的な保守勢力。

もう一つは《革新派》──
平民出身の「鉄血宰相」を中心とし、巨大な帝都や併合した属州からの
税収によって軍拡を推し進め、大貴族の既得権益を奪わんとする新興勢力。

両者の立場はどこまでも相容れず、その対立は水面下で深刻化し、
皇帝の仲裁も空しく、帝国各地で暗闘が繰り広げられるようになっていた──。

そして、それは帝都近郊にある伝統的な士官学校でも同じだった。

──《トールズ士官学院》。

帝国中興の祖「ドライケルス大帝」によって創設され、
身分に囚われない人材育成を目指してきたこの士官学校においても、
貴族派の理事と革新派の理事が対立を深め、生徒たちに影響を与えていた。

あらゆる面で優遇され、また実力も兼ね備えた白い制服の貴族生徒たち。
優秀ながらも下に見られ、理不尽感を抱き続ける緑の制服の平民生徒たち。

制服の色や学生寮が違うことも相まって、両者は事あるごとに反発しあい、
学業成績や武術訓練、クラブ活動などでも火花を散らし合うのだった。

そんな中、地方貴族の息子、リィン・シュバルツァーは
トールズ士官学院への入学を果たし、帝都近郊の街トリスタを訪れる。

季節は春──白いライノの花が舞い散る中、リィンは気付く。

自分の着た制服が、貴族生徒や平民生徒の制服の色と違うことを。
少数ではあるが、同じ「深紅の制服」を着た生徒たちがいることを。

そして学院の鐘が鳴り、始まる入学式──
偉丈夫の学院長の堂々たる挨拶が終わり、若き女性教官が壇上に立つ。

「赤い制服の子たちは集まりなさい」
「これから特別オリエンテーリングを始めるわ」

それが──波乱に満ちたリィンたち《VII組》の学院生活の幕開けだった。