■ 消えた王様の杖 ■ その夜、月は中天に輝き、青白い光が木々の梢に弾けていた。 ペンタウァの王城を離れ、久しぶりに狐狩りを楽しむ王のテントにも、月光は等しく降り注いでいる。 王は明日の狩りを思い描きながら、黄金の杖を小さな卓の上に置いた。 真紅のルビーを戴いた、ペンタウァの王たる印。初代の王が、建国の際に天神ユイターから授かった聖なる杖である。 この杖を持つ者は、王としての権力と義務を負う。それがどんなに重たいものか、人々にはわからない。 王様が贅沢をして威張っているなどと想像するのは、気楽な庶民だけだ。その庶民がいつまでも気楽であれるように、王はこの杖を携える。人々の嘆きに耳を傾け、戦になれば旗印となって陣頭に立つ。 時には、重さに耐えかねて杖を置きたくなることだってあるのだ。 狐狩りは、そんな王の疲れを察して、家臣たちが催してくれたものだ。 うれしいことである。 王は杖から離れ、寝台に身を横たえた。目を閉じると、木々の放つ緑の匂いが感じられた。穏やかな風になでられて木の葉がさざめいている。時折響く梟の声。 そして猟犬たちのけたたましい咆吼……! 「陛下、お逃げください!」 側近たちの叫び声が耳を打つ。 王は跳ね起きた。 入り口部分の天幕が斧で引き裂かれる。 ほとんど同時に、大型モンスターが2頭、躍り込んできた。豚に似た醜い顔、下顎から突き出した牙、力士のように頑丈な足で二足歩行している。オークだ。 王は寝台から飛び降り、小卓に置いた杖を取ろうとした。 杖を振れば、その聖なる力で魔物共を追い払うことができる。 しかし、連日の激務で玉座に釘付けだった王の体は、いささか鈍っていた。 1頭のオークが斧を振り上げ、王の前に立ちはだかる。 その間に、もう1頭が杖をひっつかんだ。 しまったと思った瞬間、王の前に立つオークがテントの支柱をなぎ払った。 真一文字に閃く斧、乾いた音を立てて両断される柱。頭をかばってうずくまるしかない王の上に、天幕が降りかかる。 オークたちは走り去った。 側近たちに助け出された時、王は奇跡的に無傷だった。 しかし、杖を持ち去られた衝撃は大きく、立ち上がることができなかった。 「杖を……。早く取り戻さなければ……」 今、王は勇者の出現を求めている。 |
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