■ 失われたタリスマン ■ 乙女の爪はエメラルドで出来ているようだった。 爪だけではない。全身が若芽のような緑色だった。 艶やかな指先には、金色のタリスマンが輝いている。 ……これをあなた方に。いつまでも凍えることのないように。 乙女は、長い長い緑色の髪をたなびかせて去っていった。 木々の間をすり抜ける風のように。 かのタリスマンについて伝えられている話といえば、そんな短い神話がひとつきりだ。 緑の乙女とは、下級の神か精霊と考えられているが、ペンタウァを守護する神体系の中に、彼女らしき姿はない。 しかし、タリスマンはもたらされ、大地は繁栄した。 そもそもペンタウァは、岩と砂ばかりの荒れ果てた土地だった。 黄金の台座に安置されたタリスマンは太陽を受けて輝き、命の光を八方へ投げかけた。 枯れた土から若芽が次々と吹きだし、やがて森になった。 タリスマンの周りでは、いつも小鳥たちが生命の歌をうたっている。 以来、人々は凶作も災害も知らない。 そのペンタウァに、季節を無視した雪が降っている。 暦はすでに6番目の月。神々の女王が幾千万の花を咲かせる月だ。 アカデミアの資料にも、この時期に雪が降ったなどという記録はない。 開きかけた多くの花びらが凍りつき、木々の梢には樹氷が光っている。 タリスマンに何かが起きている。 人々の願いを受けて、あるソーサリアンたちがタリスマンの森へ向かった。 その途端。 足下にうずくまっていたブナの若木が、みるみるうちにひと抱えはあろうかという大木に成長した。 目を疑うソーサリアンたちの耳に、低い祈りの声が聞こえてくる。 不快な鐘の音と共に、蝿のうなりにも似た邪悪な響きが大地を這ってきた。 タリスマンを守らなくては。 ソーサリアンたちは駆けだした。 |
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