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神の塔 -FATA MORGANA TEMPLUM- 「ちくしょう、出せ、出しやがれってんだ!!」 「静かにしていろよ、小僧。俺としちゃあ、この砂漠で放り出してもいいんだ。手間が省けるからな」 最初の出会いから、数カ月後の月の夜。ディーとモーブは、カルア砂漠を北に走る囚人護送馬車の中にいた。 こうなった原因は、ディーの賭けにあった。日々窃盗を繰り返すも、一向に暮らしは楽にはならず、それどころか、栄養失調や病気で次第に孤児院の仲間が減っていった。そんな現状に業を煮やしたディーは、とある貴族の城をモーブと二人で襲い、結果として捕まってしまったのである。モーブが逃げる段取りを誤ったのだが、ディーは成り行き上、モーブを責められずにいた。 ひとしきり騒ぎ暴れたディーは、ふてくされたように横になって、やがて何も言わなくなった。モーブはその傍らでひざを抱え、ディーの様子を心配そうに見ている。 ディー達の他には、女が一人座っていた。ローブとフードを深く身に纏っているため、容姿が判然としないが、フードの下に見える、細いあごの輪郭と、流れる芳香が、大人の女性であることを証明していた。それはいわゆる、男を魅了する類のものだったが、ディーはただ「けっ女臭い」の一言で片づけていた。 モーブはディーに聞いた。 「ねえ、ディー。これから、神の塔ってところで、ロウドウさせられるんだよね」 「ああ」 「この先・・・・どうなっちゃうのかなぁ」 その、ぼうっとした口調に、ディーは答えなかった。だが、ローブの女が薄く笑った。 「な、何がおかしいんだよ」 モーブは言った。 「のんきなものね、と思ったのよ」 一拍おいて女は言った。 「ぼうや。これがかぼちゃの馬車でないことは判っているわよね」 少しむすっとしたモーブを見て、女は更に微笑して続けた。 「このまま行くと2、3日後には、素敵な場所へ到着するわ。一日に一度の食事。夜明けから日が暮れるまで遺跡の発掘作業。そんな暮らしが一生続くの」 「一生?まじめに働けば、許してもらえるって聞いたよ」 「ほほほほほ。お馬鹿さんね。そんなの気安めでしかないわ。あの塔は国の厳重な管理の元にあるの。そんな簡単に出して貰えるわけないでしょ。脱走したとしても、この広大なカルア砂漠を、充分な装備も無しでどうやって抜けるというの」 「いまだかつて、神の塔から逃れた者はいないわ」 女の言葉に、モーブは激しく落胆した。一方ディーは、相変わらず憮然と寝っころがっている。 |
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